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第3話 見えない鎖 <罠> 3
くるりと反転させられ、後ろから赤髪の男に羽交い絞めにされる俺。
「なっ………」
驚き身体を逃がそうとするも、びくともしない。
朝から晩まで座り仕事。
ジムに通うわけでもなく、運動と言ったら、通勤で歩く程度。
若者に勝てるわけなど、なかった。
暴れる俺に、目の前に回り込んだピアス男が、にたにたとした嫌な笑みを浮かべる。
Yシャツの上から鎖骨に触れた指が、曲線を描きながら、胸に、腹に、落ちていく。
変な恐怖感が、背を這った。
恐怖感に縮こまった喉は、声を発するコトを忘れた。
「美味しそう……」
ピアス男は、指を滑り落としながら、舌舐めずりをする。
嫌な寒気が、冷えた汗となり、背を伝う。
「ほんと、変な趣味だなぁ」
先程まで担がれていた小柄な男は、側のガードレールへ腰を落とし、はぁっと呆れたような息を吐いた。
「いいじゃんっ」
ピアス男は、ぷくっと片頬を膨らませ、小柄な男を、ちらりと睨んだ。
俺に視線を戻したピアス男は、天使のような屈託のない笑みを顔に湛えた。
「たっくんへの慰謝料は、僕が立て替えてあげる。その代わり、オジサンは、僕に身体で払ってね」
ぐっと眉根を寄せ、訝しげに見やる俺に、ピアス男は、くすっと小さく声を零す。
がさごそとポケットを探ったピアス男は、そこから飴玉をひとつ取り出した。
「はい、慰謝料」
取り出した飴玉を、徐に小柄な男へと差し出した。
「お前なぁ、飴玉1コってなんだよ?」
小柄な男は、むっとした顔をしながらも、素直にそれを受け取り、開封し、口の中へと放った。
「あとは、見物料と相殺で」
跳ねるような楽しげな音で言葉を放ったピアス男の周りに、感じ取りたくもない雄の色香が漂った。
ここじゃちょっと目立ちすぎるよね…と零したピアス男に、俺は、赤髪の男に引き摺られ、草むらへと連れられる。
逃げ出そうと暴れるも、やっぱり赤髪の男は、びくともしない。
「残念だねぇ。僕たちに捕まったら、逃げられる訳ないのにねぇ」
ピアス男は、終始、くすくすと笑い続けていた。
草木に囲まれ、薄暗い場所へと連れ込まれた俺。
首に巻かれたままのネクタイで、両手首を一纏めに縛り上げられた。
手を抜こうとすれば、必然的に、首が絞まる。
暴れれば、暴れただけ、首が絞まる。
赤髪の男は、ずっと後ろから、俺の肩をぐっと握っていた。
逃げようと身体を反らせば、指が食い込むほどに、肩を掴まれ、痛みが走った。
縛られた俺の手を器用に避けながら、ピアス男の指が、シャツのボタンを、ゆるりと外す。
シャツのボタンをすべて外され、インナーのシャツが露わになる。
「めんどい……」
ぼそりと声を放ったピアス男に、パーカーの彼が何かを投げ渡した。
ピアス男が、ぱしっと片手で受け取ったそれは、折りたたまれているサバイバルナイフだった。
ピアス男は、俺の耳許にそれを寄せ、パチンっと組み立てる。
ぞわっとした寒気が、身体を這った。
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