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第9話 見えない鎖 <罠> 9
下からガツガツとピアス男に突き上げられ、身体を走る痺れに、口から淫らな喘ぎを零していた。
ただ足を踏んだだけ。
そもそも、痴漢が俺の尻など触らなければ、こんなコトにもならなかったのに。
なんで、俺がこんな目に、あわなきゃいけないんだよ。
なんで、俺だけ。
思ったところで、考えたところで、この現実は、変わりは、……しない。
腹の中に、熱く重い、白濁とした液体が放たれた……。
中途半端に絡む衣類に、疲れ切った身体は、地面に頽れた。
指先ひとつ満足に動かすことの出来ない身体。
それでも俺は、スマートフォンを弄るパーカーの男に、怒りを乗せた瞳を向ける。
出すものを出し、すっきりとしたピアス男は、赤髪から手渡されたティッシュで汚れた部分を粗く拭い、スラックスを直していた。
「消せ、よっ……」
怒声を響かせるつもりで放った声は、か弱く空中分解する。
「んー、なぁに?」
小馬鹿にするように耳を寄せる小柄な男に、胸の中が怒りで埋まる。
パーカー男は、嘲り笑う小柄な男の肩に手をかけ、俺の前から退けた。
じっと怒りに滾る瞳を向ける俺に、パーカー男は、面倒そうに息を吐き、腰を落とした。
「恥ずかしい方が感じるのかと思って撮っただけだし」
そう言って、俺の痴態が映っているスマートフォンを、目の前に翳される。
自分の乱れように、思わず視線を背けた。
「オジサンの痴態、撮ったって、ヌけねぇし…。金も、ねぇんだろ? たかれもしねぇじゃん」
ふっと鼻で嘲笑ったパーカー男は、俺の目の前で、ゴミ箱のアイコンをタップする。
「消してあげる。用は済んだし」
「あーっ。なんで消すのぉっ! せめて僕に送ってからでしょ~」
むっとむくれた顔をし、文句を放ったのは、ピアス男。
「兄さんに…殺されるけど……、いい?」
にこっと笑ったパーカー男の目は、全く、笑っていなかった。
ピアス男は、自分で自分の身体を両手で抱え、ぶるっと身体を震わせた。
「いいっ! いや、殺されんの、ヤダっ。いらない、いらないっ」
ぶるぶると顔を振るったピアス男は、俺に背を向けた。
ピアス男を追うように、小柄な男も、赤髪の男も、俺の側を離れていった。
普通に歩く小柄な男に、無意味に犯されたコトに、怒りだけが、胸に巣食う。
「終わってないよ………」
言葉の意図が掴めずに、ぐっと寄せる眉間の皺に、パーカー男の瞳が弧を描く。
俺の手首を拘束するネクタイを外しながら、くくっと詰まるような笑いを零した。
「早く飽きられるといいね、ご愁傷様………」
パーカー男は、ぼそりと声を放ち、俺の前から去っていった。
ぐるぐると回る思いは、ゴールがなくて。
消化できない思いは、捌け口を探す。
ただ、俺は、その脇道の行き止まり…、欲の不法投棄の場に、されただけ。
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