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第16話 現実の鎖 <準備> 4

「それに、こんな色っぽい顔、見ちゃったら…」  抹樹の指は、俺の中途半端に開く赤い唇の上を滑る。  熱を纏う吐息を漏らし、向ける視線は、俺の感情と反比例する。  俺の顔を硝子越しに見つめながら、抹樹のペニスは、どくりと拍動する。 「萎えさせる方が難しいですよ…」  熱く響く声に、耳から脳が焼かれる気がする。  何度出しても、抹樹のペニスは萎えることを知らなかった。  結合部から響く、ぐちょぐちょと鳴る音は、意識を嬲り、犯していった。 「早くイかないと、何時まで経っても、終わらないですよ…?」  堪らなくなったとでも言わんばかりに、抹樹の舌が、俺の首筋を這っていった。 「終わりたくなくて、我慢…してるんですか?」  耳に近づけられた唇から、脳を揺らすような熱の籠る音で囁かれる言葉に、否定の想いは心の中で首を振るい、果てたい身体は、腰を振るう。  ズクズクと穿たれる感触は、脳を突き上げ、粉々に砕かれていくような錯覚を生む。 「お腹…膨らんできたんじゃないですか?」  いやらしい手つきで、下腹部を撫でられる感触に、ぞわりとした寒気が背を這った。  そんな簡単に、腹が膨らむはずは、ない。  思うのに、挿さるペニスに、吐き出された精液に、腹が満たされている…そんな、変な満腹感を与えられる。  染められ、支配されているような感覚は、屈辱の他の何物でもない。  雄を突き立て、征服し、組敷く側の人間のはずなのに。  中を犯され、染められ、喘ぐ。  苦しくて、悔しくて、暴れだしそうな感情は、与えられる快楽に、勢いを失い、失速する。  加速するのは、快楽への欲求のみ……。  この歳になって、教えられた快楽は、俺の中の常識を壊していく。  身体は、経験したコトのない刺激に、従順に反応し、溺れていく。  俺の身体は、あの時の快感を追い求めていた。  昂る欲求のままに、気持ちのいい方、楽な方へと転がり落ちていく……。  立っている感覚が薄れる内腿を、生温い粘液が、重力に引かれ、落ちていく。  ぺニスを挿抜される度、微かに生まれる隙間から、細い線を描き、溢れ落ちた精液は、俺の内腿を白く染め上げていく。 「僕の精液…床についたら、取るの大変ですね…」  事務所の床は、靴音が響かないように、絨毯素材のパズルマットが敷き詰められていた。 「早くイかないと、床まで垂れちゃいますよ。……どうしたら、イけると思います?」  自分のぺニスに伸ばす手を、膝裏を回る抹樹の手が、ぱしりと撥ね退けた。 「自分でするのは反則です」  反則も、くそも、ないっ……。  思ったところで、カリッと耳の端に歯を立てられ、腰が抜けそうになる。 「ンッ…ぁあっ………っ」  落ちそうになる俺の身体を支えるのは、抹樹のペニス。  下から突き上げるように揺さぶられれば、俺は無意識に、合わせるように腰を振るう。 「はぁあっ…ぁっ、………」 「あんまり揺すったら、隙間出来て、零れちゃいますって……」  ほら…と揺すられる腰から、ぐちょっと粘着質な音が立つ。  腰回りを微妙な手つきで撫で回され、身体が跳ねる。 「ねぇ…。どうして、欲しい…、ですか?」  耳に寄せた唇から放たれる抹樹の声は、色気を伴い、脳を揺さぶる。 「はぁっ……しご、しごけ………っ」  息苦しさに、仰け反る顎に、抹樹の勝ち誇ったような笑う声が降る。

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