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第18話 現実の鎖 <準備> 6

 中を犯され、穢され、快楽の沼へと突き落とされる。  この行為に、快楽しか感じなくなってしまったら…。  屈辱の想いが消えてしまったら……。  そんな日が来て、しまったら………。  ぞわりと背を走った感覚は、快感か、屈辱か。  恥辱にまみれ、堕ちていく身体と精神は、快楽の虜となり、その身を焦がし、プライドを滅ぼしていく…、気がした。  近場のデスクに置かれているティッシュを無造作に数枚引き抜いた抹樹は、俺との結合部の下に、それを押し当てた。 「んっはぁっ……」  ずるりと抜け出る感触に、びりっと走る痺れに、押し止める機能を失ったように、口から喘ぐ音が零れ落ちる。 「そんなエロ声出されたら、もっかい挿れますよ?」  まだガチガチに勃ち上がるぺニスを俺の濡れた内腿に擦り付けながら、抹樹は、腰を抱く腕に、ぐっと力を込める。  俺は、腰を回る抹樹の腕に手をかけ、逃げるように、力を加える。 「腕、離したら、白根さん崩れますよ…?」  ココから零れたの、床にべったり着いちゃいますよ…と、抹樹は、貼り付けたティッシュを、俺のアナルに、ぐりっと押し付けた。  はあっと大きく息を吐き、俺は腕に入れていた力を抜いた。  抹樹は、俺の汚れた下肢をハンドタオルで粗く拭った。  足腰の立たない俺は、抹樹にされるままに、なっていた。  俺の尻にはティッシュが挟まれたままで、脱ぎ捨てられていた下着とスラックスを履かされる。  近くの椅子を引き、抹樹は、俺を座らせ、自分の身なりを整えた。 「映画、見に行きたいんですよ」  硝子に貼りついた俺の淫液を、手にしたハンドタオルで拭き取りながら、抹樹は何でもないことのように言葉を紡いだ。  くっと寄る眉根に、抹樹は、いつもの爽やかな笑みを湛え、俺を見やる。  汚れを拭ったハンドタオルをポケットへと無造作に押し込んだ抹樹は、胸の内ポケットに手を入れると、真っ黒な革の長財布を取り出した。 「映画館、ひとりで入るの苦手なんです」  長財布を開き、中から細長い紙を取り出した。  それを、ひらひらと俺の目の前で、振るった。 「俺じゃなくても、他に…総務の黒田(くろだ)でも誘えば、喜んで行ってくれるんじゃないのか?」  黒田は、総務の女の子だ。  大卒で会社に入ったばかりの彼女は、抹樹のコトを意識している。  抹樹と抹樹以外の人間に対する対応が余りにも違いすぎて、好きの気持ちが駄々漏れるとは、ああいうのを言うのだろうと感じる。  俺の言葉に、抹樹の瞳は、すっと細く怒りを浮かべる。 「嫌ですよ。女と行ったら、面倒じゃないですか…。ジュースやポップコーンを買ったり、エスコートしないと女はすぐに拗ねるでしょ?」  それに煩そうだし…と、抹樹は、心底面倒臭そうに溜め息を吐き出し、言葉を繋ぐ。 「残念ながら、白根さんに拒否権は、ないんです」  ふふっと笑った抹樹は、空いている手で、シャツの胸ポケットに入っているスマートフォンをちらりと引き出す。  抹樹のスマートフォンには、俺の痴態が着々と増えていっていた。  俺は、そんな抹樹の動きに、小さく溜め息を吐き出した。  ひらひらと目の前で振られる映画のチケットを、ぱしっと引ったくるように、受け取った。 「待ち合わせは、日曜日の13時。駅ビルの映画館のエレベータ前にしましょうか?」  にこにこと楽しそうに言葉を紡ぐ抹樹の様子は、一瞬だけ、俺たちの関係性を忘れさせる。  まるで、普通の恋人同士が、次のデートの約束をしているような雰囲気だった。 「…わかった」 「あ、首回りの空いた服は避けてくださいね。出来れば今、着ているYシャツで…」  抹樹は、俺のシャツの首許に指を引っ掻ける。 「んー……。もう少しだけゆとりのある感じがいいですね」  にっこりとした爽やかな笑顔。  その後ろには、真っ黒で意地悪な裏の顔。  微かに見え隠れする抹樹の裏の顔に、背中を、ぞくりとした感触が走り抜けていった。

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