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第23話 現実の鎖 <映画館> 4

「コード見えたら、恥ずかしいですね」  後ろを歩く抹樹は、俺のシャツの裾を直すように下へと引きながら、中へと滑り込ませた指で、コードを燻らせた。 「やめっ…」  顔が染まるのを、止めることなど出来ない。  振り払うように伸ばした手は、逆に抹樹に弾かれる。 「緊張して、喉、乾きましたよね? 僕、買ってきます」  白根さんは、ここで待っていてください…と、にっこりと微笑んだ抹樹は、有無を言わさず、売店へと足を向けた。  ここだけ、…飲み物を買いに行く姿だけを切り取れば、甲斐甲斐しく世話を焼く、いい後輩だ。  でも俺は、その飲み物にすら、何か仕掛けがされているのではないかと、勘ぐってしまう。 「お待たせしました」  満面の笑みで戻ってきた抹樹の手には、ラージサイズの飲み物が2つ。  そのまま、映画館内へと連れていかれた。  見せられた映画は、少し前に公開されたアクションサスペンスだった。  客の入りが落ち着いた映画は、席が疎らに空いていた。  俺たちの座席は、最後方のひとつ前、真ん中辺り。  前後左右は、空いていた。 「飲んで下さい」  映画の予告が始まると、抹樹は買ってきた飲み物を俺に勧める。  …勧めるというよりも、半ば、強制的に俺に飲ませた。  ラージサイズの飲み物を、映画が終わるまでに飲み干すように、指示される。  普段からあまりに水分を取らない俺には、ラージサイズの飲み物は、苦痛でしかなかった。  俺の頭の中に、映画の内容など入ってくるはずもなかった。  映画が放映されている最中、俺の腹の中では、小さな無機物がブルブルと振動し続けている。  本編の放映が始まった瞬間に、抹樹の手により、ローターのスイッチが入れられた。  さらに、飲みたくもない飲み物を、飲み続けなくてはいけない。  腹の中に響く振動に、聞こえるはずなんてないのに、周りに漏れ聞こえてしまいそうで、落ち着かない。  音漏れの恐怖に力を入れれば、強く振動を感じ、身体が揺らぐ。  口許に拳を当て、荒くなる息を、押し殺す。  抹樹の手が、俺のポケットへと滑り込もうとする。  するりと忍び寄る抹樹の手首を、ぎゅっと握った。  バイブレーションの強度を上げようとしているのは、明らかだ。  ちらりと睨みつけるような瞳を向け、小さく首を振るう。  映画の音が瞬間、止まる。  俺の耳許に唇を寄せた抹樹が、囁くように言葉を紡いだ。 「物足りない…、でしょ?」  手首を掴む手に、より一層の力を込める。  抹樹の手は諦めたように、俺から離れようとした。  ほっと息をつき、抹樹の手首を掴む力を緩めた。  拘束から逃げた抹樹の手は、ジーンズの上から、硬く勃ち上がる俺のペニスをなぞった。  驚き見開いた瞳を向ける俺に、抹樹は、正面のスクリーンを見つめたまま。  しれっとした表情のまま、映画のスクリーンをじっと見つめていた。  でも抹樹の手は、俺の股間を弄り続ける。  振り払おうと伸ばす手は、ぱしんと叩き落とされる。  ちらりと向いた抹樹の視線は、触るくらいいいでしょ? とでも言いたげに細められる。  ぐにぐにと、プラグの存在を知らしめるように、亀頭をなぶる抹樹の指に、腰が跳ね、艶めいた息が零れる。

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