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第24話 現実の鎖 <映画館> 5
俺は前屈みに身体を丸め、腹と腿の間に抹樹の腕を挟み込んだ。
溢れそうになる声を、口許を覆う手で抑え込む。
身体に挟まれても尚、抹樹の手は、俺のペニスを嬲ることを止めない。
股間を嬲る抹樹の腕を掴んだ。
無理だ。苦しい…。
抹樹には瞳を向けず、俺は、ただただ小さく頭を振るった。
静かになる映画に、はぁっと溜め息のような音が、隣から聞こえた。
ずるっと引かれ、身体に挟まっていた抹樹の手が、離れていった。
直ぐには落ち着かない呼吸に、俺は、肩で息をする。
前屈みのまま固まる俺の肩に、抹樹の手が触れる。
手荒く身体を起こされる。
背を椅子に預けると、苦しさに、顎を仰け反らせた。
潤む瞳のままに、睨むように、抹樹に向けた視線。
チラチラと変わる映画の光に照らされる抹樹の顔は、くっと口角が持ち上がる。
するりと寄った抹樹の手が、俺の襟元のボタンにかかった。
俺は慌て、その手首を掴み、抹樹を睨みつけた。
「苦しそうだから、開けてあげるだけですよ」
映画の音声の隙間で、小さく放たれる抹樹の声。
これ以上逆らうなら、容赦しないとでも言うように、空いている抹樹の手が、俺のポケットの上を撫でる。
俺は、抹樹の手首を掴む手を退けた。
ぷちっ、ぷちっ、と第2ボタンまで外される。
素肌の上に、シャツをそのまま着てきてしまった自分を呪いたい。
開けられた隙間から、赤く色づく素肌が覗く。
「………っ」
抹樹の指が、いやらしげに鎖骨をなぞった。
零れそうになる熱を纏う吐息を、唇を噛んで堪えた。
ふふっと小さく、抹樹の嘲笑う音が、耳に響いた。
するりと首の周りに何かが巻き付く。
くっと寄る俺の眉根にも、映画の光で微かに見える抹樹の笑みに、変わりはない。
絞められそうな恐怖に、首に巻き付くものに手を伸ばす。
それは、何かの柔らかな紐のようで。
ふと、抹樹のパーカーの紐が消えていることに気がついた。
俺の手は、抹樹に握り込まれ、動きを阻まれる。
抹樹は、そっと俺の耳に唇を寄せた。
「絞めたりしませんよ……」
くすりとした笑みを浮かべた抹樹は、握った俺の手を、脚の上へと誘い放った。
「絞めて…、欲しいんですか?」
ふふっと笑みを溢す抹樹に、俺は首を横に振るう。
再び俺の首に巻き付く紐に、言い表せない恐怖を誤魔化すように、瞳を閉じる。
首の付け根辺りに巻き付けられたそれは、直ぐに、するりと外された。
「はっ………」
おかしな強迫観念から放たれた俺の口から、安堵の息が零れる。
抹樹は、手を引き、俺を立ち上がらせた。
映画はまだ、終わらない。
「ま、だ……」
スクリーンを、ちらりと見る俺に、抹樹は、黙って手を引っ張った。
いいだけ嬲られた俺は、まともに歩くことも儘ならない。
膝から下の感覚が鈍く、腰が痺れたように疼いていた。
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