24 / 90

第24話 現実の鎖 <映画館> 5

 俺は前屈みに身体を丸め、腹と腿の間に抹樹の腕を挟み込んだ。  溢れそうになる声を、口許を覆う手で抑え込む。  身体に挟まれても尚、抹樹の手は、俺のペニスを嬲ることを止めない。  股間を嬲る抹樹の腕を掴んだ。  無理だ。苦しい…。  抹樹には瞳を向けず、俺は、ただただ小さく頭を振るった。  静かになる映画に、はぁっと溜め息のような音が、隣から聞こえた。  ずるっと引かれ、身体に挟まっていた抹樹の手が、離れていった。  直ぐには落ち着かない呼吸に、俺は、肩で息をする。  前屈みのまま固まる俺の肩に、抹樹の手が触れる。  手荒く身体を起こされる。  背を椅子に預けると、苦しさに、顎を仰け反らせた。  潤む瞳のままに、睨むように、抹樹に向けた視線。  チラチラと変わる映画の光に照らされる抹樹の顔は、くっと口角が持ち上がる。  するりと寄った抹樹の手が、俺の襟元のボタンにかかった。  俺は慌て、その手首を掴み、抹樹を睨みつけた。 「苦しそうだから、開けてあげるだけですよ」  映画の音声の隙間で、小さく放たれる抹樹の声。  これ以上逆らうなら、容赦しないとでも言うように、空いている抹樹の手が、俺のポケットの上を撫でる。  俺は、抹樹の手首を掴む手を退けた。  ぷちっ、ぷちっ、と第2ボタンまで外される。  素肌の上に、シャツをそのまま着てきてしまった自分を呪いたい。  開けられた隙間から、赤く色づく素肌が覗く。 「………っ」  抹樹の指が、いやらしげに鎖骨をなぞった。  零れそうになる熱を纏う吐息を、唇を噛んで堪えた。  ふふっと小さく、抹樹の嘲笑う音が、耳に響いた。  するりと首の周りに何かが巻き付く。  くっと寄る俺の眉根にも、映画の光で微かに見える抹樹の笑みに、変わりはない。  絞められそうな恐怖に、首に巻き付くものに手を伸ばす。  それは、何かの柔らかな紐のようで。  ふと、抹樹のパーカーの紐が消えていることに気がついた。  俺の手は、抹樹に握り込まれ、動きを阻まれる。  抹樹は、そっと俺の耳に唇を寄せた。 「絞めたりしませんよ……」  くすりとした笑みを浮かべた抹樹は、握った俺の手を、脚の上へと誘い放った。 「絞めて…、欲しいんですか?」  ふふっと笑みを溢す抹樹に、俺は首を横に振るう。  再び俺の首に巻き付く紐に、言い表せない恐怖を誤魔化すように、瞳を閉じる。  首の付け根辺りに巻き付けられたそれは、直ぐに、するりと外された。 「はっ………」  おかしな強迫観念から放たれた俺の口から、安堵の息が零れる。  抹樹は、手を引き、俺を立ち上がらせた。  映画はまだ、終わらない。 「ま、だ……」  スクリーンを、ちらりと見る俺に、抹樹は、黙って手を引っ張った。  いいだけ嬲られた俺は、まともに歩くことも儘ならない。  膝から下の感覚が鈍く、腰が痺れたように疼いていた。

ともだちにシェアしよう!