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第27話 現実の鎖 <お散歩> 1

 足を動かす度に感じる異物感に、落ち着かない。  見えるはずもない。  わかるはずもない。  誰にも迷惑など、かけていない。  なのに。  いけない事をしているような背徳感が、胸を騒がせた。  抹樹は俺の隣で、今にもスキップでもし出しそうなほど、楽しげに歩く。  その姿が、余計に俺を苛立たせる。 「ここで買い物します」  にっこりとした笑みを浮かべた抹樹は、俺を先に店内へと入れた。  そこは、商店街の一角のペットショップ。  生体も売っているが、抹樹の目当ては、それでは無いようだった。  店内に入る頃には、アナルの中に埋まる異物の存在が少しだけ薄れかけていた。  慣れと言うのは、恐ろしいものだ……。  後ろからかけられる抹樹の圧力に、俺は、ゆるゆると足を進める。  分かれ道に差し掛かると、どちらに進むのか、後ろから指示が掛かった。  奥へと足を進めようとする俺の腕を、抹樹が掴んだ。  振り返る俺に、抹樹の視線は目の前に陳列されている首輪に向いていた。  俺の腕を放った抹樹の手が、大型犬用の真っ白な首輪を取る。  犬でも飼っているのだろうか…。  俺は、ぼんやりと抹樹の行動を眺めていた。  空いている手をポケットへと入れた抹樹は、そこから細い紐を取り出した。  その紐は、映画館で俺の首に一瞬巻かれた、あの紐のように見えた。  きょとんとした瞳のままに、抹樹の動作を見やる俺。  抹樹は、手にした紐を首輪に当て、長さを測っているかのようだった。  何かに納得したように、くっと口角を上げた抹樹は、その首輪を手に、下に陳列されているリードへと瞳を向けた。  人差し指をするするっと横に滑らせた抹樹は、1本のリードを手にする。  それは、大型犬用のゴツい首輪とは不釣り合いな、細かなチェーンのリードだった。  小型犬用の軽いものだ。  抹樹の選択に一貫性がなく、俺の頭には疑問符ばかりが浮かんだ。  抹樹は、顔を上げると、きょろきょろと辺りを見回した。  ¥マークの掲げられている場所を見つけ、指で示して見せた。  次の目的地は、レジ、らしい…。  俺はまた、抹樹の前を歩いた。 「タグ取ってもらえますか?」 「はい」  にっこりと笑む抹樹に、レジを操作する店員は、ほんのりと頬を染めながら、可愛らしく返答する。  抹樹が会計を済ませている間、俺はレジの横のショーケースを眺めていた。 『ワンちゃんにも安心。ワンちゃんのためにケーキ(調味料不使用)』  今時は、犬用のケーキまで売っているのか…。  変に感心し、見入っている俺に、抹樹のくすくすと笑う声が降ってくる。  ちらりと見上げる俺。 「買ってあげましょうか?」  店員に聞こえない程度の小さな音量で、俺に問いかけた。  俺は、そんな抹樹を、ぐっと睨みつけていた。  会計が終わり、商品を手にした抹樹は、俺の背を叩き、ペットショップから出るように促した。

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