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第28話 現実の鎖 <お散歩> 2
ペットショップを出て、どこに向かえばいいのか、と抹樹を振り返る。
抹樹は、何時もの爽やかな笑みを浮かべる。
この笑みを浮かべるときの抹樹は、要らぬことを考えている時だ。
はぁっと重たい息が、俺の口を衝く。
くっと腕を掴まれた俺は、商店街の路地裏へと誘われた。
店舗の壁に背を預けさせられた俺の耳に抹樹の唇が近づいた。
「そろそろ刺激、足りなくなってきましたよね?」
囁かれた言葉に、くすくすと笑う抹樹は、爽やかな笑みとは対照に、真っ黒に歪んで見える。
背中に、ぞわっと嫌な感覚が走る。
抹樹は、ペットショップで購入した首輪を袋から取り出す。
何をしたいのかと、眉根を寄せたままに、視線を向けている俺に、抹樹は笑みを崩さない。
抹樹は、手にした首輪を、するりと俺の首に回した。
「なっ……」
まるでペットのような扱いに、屈辱感が胸を覆った。
俺は、腹立たしさに、抹樹の動きを止めようと、手を伸ばす。
「逆らわないで下さいよ。写真、流して欲しいんですか?」
微笑みを絶やさずに、言葉を紡ぐ抹樹が怖くなる。
俺は、きゅっと瞳を閉じ、顔を逸らせた。
巻かれた首輪に、恥辱の想いが胸を染め上げる。
ぞわりとする感覚は、身体を痺れさせた。
リードを取り付けるためのリングに、持ち手側の端が通され、輪を作り、固定される。
そのまま首輪をくるりと回転させる。
リードの固定されたリングが背中側に回った。
リードの逆の端を持った抹樹は、俺の首裏のシャツを掴むと、くっと離すように壁側へと引いた。
「……ひっ」
衣服と肌の間に出来た隙間に、リードが落とされた。
冷たい鎖の感触が背中を撫で、引き攣るような音が、俺の口から零れた。
俺を抱き締めるように腕を回した抹樹は、本来なら首輪につけられるナスカンを、ジーンズのベルト通しに、引っ掛けた。
くるりと身体を回され、壁を向かされる。
―― カシャッ
何時ものように、抹樹は俺の姿を写真に収めた。
撮った写真が俺の目の前に翳される。
「ウォレットチェーンみたいでしょ?」
確かに……。
シャツの裾から延び、U字を描くチェーンの先が、首輪に付いているようには、見えなかった。
「ぅっ……」
ぐっと、裾からはみ出るチェーンが下へと引かれ、俺の首が絞まった。
「本当は首輪についてるなんて、誰にも気づかれませんよ…」
ふふっと笑う抹樹は、心底、俺を甚振ることを楽しんでいた。
抹樹は、後ろから俺の首元に手を回す。
言い知れない怖さに、俺は、抹樹の手を掴んでいた。
「何もしませんって…、ボタン、留めてあげるだけですよ」
俺の手を軽くあしらった抹樹は、中途半端に開いている首回りのボタンを留めた。
「もっと刺激的な場所に行きましょうね。白根さんがもっと、興奮できるように……」
言葉を紡いだ抹樹は、ふふっと楽しそうに笑いの音を零した。
俺は、抹樹の所有物……。
首に付けられた首輪に、そう言われている気がして…、ならなかった。
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