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第29話 現実の鎖 <お散歩> 3~ Side M
首輪なんて、見えても大したことない。
もっと、えげつないデザインのものだって山ほどある。
俺が白根さんにつけた首輪は、真っ白な革のシンプルなものだ。
チョーカーのようなアクセサリーと一緒。ファッションの一端。
その辺の若者が、ファッションでランドセルを背負って歩くのと、なんら変わりはない。
なのに。
白根さんは、落ち着かない。
眼鏡の奥の瞳は、ちらちらと行き交う人を観察する。
オジサンの白根さんには、このファッションは、理解出来ないものなのだろう。
ファッションとして理解できたとしても、オジサンがするべき格好ではないと、思っているのかもしれない。
何より、″首輪″その物が、征服されている感覚になり、気に食わないのだろう。
時折、首許を気にするように、手が上がる。
俺は、シャツの裾からはみ出している、首輪についた鎖を、キュッと引く。
「ぅぐっ………」
大きめの首輪は、引かれたタイミングで白根さんの首筋に擦れ、痕を残す。
擦れた衝撃は、小さな痛みとなる。
痛みに潤む瞳が、睨むように俺を見やる。
「触ったら、バレますよ?」
にっこりと笑みを浮かべる俺に、白根さんは、染まる頬のままに視線を背けた。
「家まで、送りますね…」
こんな、いやらしい顔の白根さんを、1人で電車になんて、乗せてやらない。
「っ……。いい加減、解放しろ」
はぁっと呆れたように、重たい息を吐く白根さん。
「嫌です」
満面の笑みを浮かべて答える俺に、白根さんは、小さく舌を打った。
嫌なのは、貴方も一緒。
口や態度で、認めてなくたって、俺に虐げられることに、ぞくぞくとした痺れを感じているのでしょ?
このままここで解放したら、首輪も玩具も外してしまう。
そして、身体に残るのは、燻る熱だけ。
貴方はその熱の処理方法を…、知らないクセに。
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