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第36話 現実の鎖 <お散歩> 10

 くすくすと笑いながら、ジーンズに取りつけたナスカンを外した。  シャツのボタンを開け、そっと首輪を外し、白根さんを解放する。  持ち上げた首輪に、チェーンが白根さんの肌を滑り、隙間から抜け出してくる。 「また、お散歩しましょうね…」  顔の横で首輪を振るい、ふふっと笑みを湛える俺に、白根さんは、ぐっと顰めた瞳を向けた。  立ち上がり、帰ろうかと思った瞬間、ポケットに突っ込んでいたローターの存在を思い出た。  それを引きずり出し、白根さんの胸ポケットへと突っ込んだ。  白根さんは、胸ポケットと俺の顔を交互に見やる。 「プレゼントしますから。…楽しんで下さい」  きっと、ローターは、ゴミ箱へと捨てられてしまうのだろう。  くすっと笑い、俺は、後ろ手に玄関の扉を開けながら、2、3歩後ろへと下がった。  敷居を跨ぎながら、小さく手を振るった。  この後、抱かれることを覚悟していた白根さんは、帰ろうとする俺を、怪訝な表情で見ていた。  それでも俺は、外に出て、そのまま扉を閉めた。  さすがに今日は、無理を、させ過ぎた……。  本当は、公園のトイレで言わせたかった言葉は、あれじゃない。  『気持ちいい』なんて言葉じゃなくて。  『好き』の言葉が、…欲しかった。  言わせようと、思ったけど。  あの状態なら、きっと、言ってくれただろうけど……。  心の入っていない言葉に、なんの意味があるのかと、思ってしまった。  その思いは、躊躇いとなり、紡がせることを…、拒んだ。  一生、貰えない言葉だと知っているから。  一度くらい言って貰えば良かった……、かな。  家路を歩きながら、鼻先に首輪を近づけた。  革の匂いしかしないその物体。  でも、俺の頭の中には、首輪をしたままに、組み敷かれている白根さんの姿が妄想される。  股間に熱が溜まり、どくんっと大きく脈打った。  そろそろ、限界……、かもしれない。

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