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第39話 外せない鎖 <解放> 2~ Side M
白根さんが居なくなってから、深く溜め息を吐いて、ソファーに座り、項垂れた。
「はぁ~…疲れた。ありがとうね…」
ぐったりとソファーに座り込んだ俺に、彼女は可愛らしく首を傾げた。
「慰めてあげようか?」
唇に指を押し当て、フェラしようか? と俺に問う。
「無理だよ。君じゃ勃たない」
ははっ、と乾いた笑いが俺の口を衝いた。
俺はもう、白根さんにしか興奮できない。欲情しない。
「これ、乾かしたら、復活するかも」
水槽から取り出したスマートフォンを掴んで、彼女は、にたりと笑った。
「ダメだよ。…切れなくなる」
俺は、大きく息を吐き、首を振るった。
もし、スマートフォンが復活して。
もし、白根さんの画像が再び見れるようになったら。
俺は、きっと、また…白根さんとセックスしたくなる……。
「切らなくたっていいんじゃないの?」
スマートフォンをタオルに挟み、ぽんぽんっと拭いながら、彼女は、俺の横に座った。
さっきの勃起だって、白根さんが来る前に、スマートフォンに撮り貯めた白根さんの痴態で妄想して、やっと勃ち上げたものだ。
「そういうわけにもいかないよ。白根さんは専務の娘さんと結ばれるんだよ? こんな変なやつと変な関係持ってるってバレてさ、破談になったら大変だよ」
ははっと、自嘲の音が、口から零れた。
忘れるしかないじゃないか。
白根さんは、知らない女のものになるんだから。
俺との関係は、清算してあげなくちゃ。
「…白根さんのコト…これ以上、穢せないでしょ」
貴方の人生すべてを背負えるほど、俺は、大人なんかじゃない……。
貴方の人生を壊そうなんて、思ってない。
人生に引き際は幾度となくあって、引き際を誤れば、ただ真っ暗な闇の中に堕ちていくだけ。
俺はもう既に、首元まで、闇に浸かってて。
ここから這い出ることなど不可能で。
貴方の手を放さなければ、貴方も染まる。
真っ白な白根さんが、この闇と同じ、真っ黒に染まってしまう。
染めてしまいたかった。
でも、……それは、最期の砦のようで。
ギリギリのラインで俺は、貴方に繋がる鎖を放った。
「俺、人のものに手ぇ出すほど飢えてないよ」
にやりとした笑みを見せる俺の虚勢。
精一杯の痩せ我慢。
「人のものって…もう、あんたのもんだったんじゃないの?」
きょとんとした雰囲気を放ちながら、言葉を紡ぐ彼女に、俺は、盛大に笑った。
「ふははっ。脅して従わせてただけだし。白根さんは、俺になんてこれっぽっちも気持ちないよ」
ははっと笑う声が、段々と歪んでいった。
空元気に覆われていた声は、メッキを剥がされたように、本当の色を浮かべる。
はぁっと重い息が、口から零れていった。
「痛ぇ……」
本当の想いが、口から零れた。
苦しさに、項垂れた。
両手で顔を覆い、重く湿った息を吐いた。
そんな俺の頭を、彼女は優しく慰めるように、ぽんぽんっと叩いてくれた。
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