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第41話 外せない鎖 <逃亡拒否> 1~ Side M

 指の隙間から、ボロボロと熱い涙が零れ落ちていった。  好きだから、傍に居たくて。  好きだから、触れたくて。  好きだから、ものにしたくて。  狡いコトを考えて、嵌めるようにモノにした。  捕まえたと思ったのに。  俺の色に染まったと思ったのに。  白根さんの真っ白な心は、俺には、触れられなかった。  どんなに踏みつけても、どんなに嬲っても、白根さんの心は曲がらなかった。  真っ直ぐな白根さんの心には、ぐちゃぐちゃに曲がった俺の気持ちなんて、寄り添いようがなくて。  傍に居れば居るだけ、寄れば寄るほどに、離れていく気がしていた。  始めから、寄り添えてなど、…いなかった。 「好きだけど…、寄り添えないんだ。俺、曲がってるから。俺と白根さんは、違いすぎる…っ」 「馬鹿野郎っ!」  降ってきた声に、顔を上げた。  驚きに見開かれた涙に歪む視界の中に、ぐっと鋭い視線で俺を睨みつける白根さんが…居た。 「なんでだよっ! なんで、素直にならない! 好きなら真っ直ぐ、ぶつけてこいよっ!」  白根さんは放心している俺の髪を、ぐっと力任せに掴んで引き上げた。  ぶちぶちと音を立てた、俺の髪が抜ける。  白根さんは、触れそうなほどに顔を近づけ、俺を睨みつけた。 「曲がってる?」  ふっと鼻を鳴らした白根さんは鋭い瞳で俺を見下す。  年相応の貫禄のある瞳が、俺を虐げた。 「違うだろ? 臆病者っ! 怖いだけだろ? 否定されたくないだけだろ?! だから、真っ直ぐなれないんだっ」  ぐっと顔を歪めた白根さんの鋭い瞳。  俺の胸の中が、じりっと焦がされる。 「届かないかどうか、伸ばしてみろよっ」  痛いくらいの力量で、ガッと手首を掴まれた。 「この手伸ばして、欲しいって訴えろよ! お前が教えたんだろ? 欲しいものは、強請れって? 手ぇ伸ばして掴めって?!」  怒鳴りつけた白根さんは、これだと言わんばかりに、ぐっと俺の手首を握った。 「専務の娘がなんだよ?! 第一、なんの関係もないっ! 単なる愚痴の捌け口になっただけだっ」  白根さんは、悔しそうに視線を背け、チッと苛立たしげに舌を打つ。  逸らされていた瞳が、俺に戻る。  焼けるような瞳が、俺を見ていた。 「こんな身体にした、責任…取れっ!」  ぐっと引かれた腕と、押さえるように掴まれた髪に、すっと近づく白根さんの顔。  薄く開いた唇が、俺の唇を…食んだ。  初めて、俺たちは…キスを、した。 「逃がさないからなっ」  男前な言葉を放った白根さんは、自分の台詞に照れたように瞳を逃がし、頬を赤く染めた。  捕まえていたと思っていたのに。  捕まえられていたのは…、鎖に繋がれていたのは、俺、…だった。

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