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第42話 外せない鎖 <逃亡拒否> 2

 嘘のような現実。  夢のような真実。  俺は、現状を理解出来ずに、ひたすら瞳を瞬いた。  食まれた唇に残る柔らかな感触。  思わず、自分の唇に指で触れた。 「………………嘘」  俺の口から漏れた声は、信じられない現状を、疑う言葉。 「嘘に、したいか?」  鋭い瞳が、俺を睨め上げていた。  はっと小馬鹿にするような息を吐いた白根さんは、言葉を繋ぐ。 「それは、俺の方だ。すべてが嘘だったら、どんなに良かったか……」  はぁっと重い溜め息にも似た吐息を漏らす。 「申し訳ないが戻れない。お前じゃなきゃ……無理だ」  零すように声を放った白根さんは、するりと身体を寄せ、俺の腰を抱いた。  白根さんの頭が、俺の肩口に、ぽふりと埋まった。  放したくなくて。  幻でもいいと思った。  ただ、感じられる体温を、腕の中に閉じ込めたくなった。  そっと白根さんの腰に腕を回した。  肩に埋まる白根さんの後頭部を、軽く叩いた。  呼ばれるような感覚に、白根さんが、顔を上げた。  真正面から白根さんの瞳をじっと見つめ、口を開いた。 「キス……してもいいですか?」  少しだけ、口を開け、熱い息を吐いて、直ぐそこにある白根さんの唇に近づく。  でも、返事をもらえなくて。  俺は、俺を惹きつけて止まないその唇を見つめたままに、寸前で動きを止める。 「…したいな、キス」  触れそうで触れない距離。  届きそうで届かない距離。 「しても…、いいですか?」  直ぐ傍で。焦点も合わせられない距離で。  熱の籠る瞳で、白根さんを見つめた。 「聞くなっ……」  白根さんは、堪えきれないというように、視線を逃がす。 「ふふっ………」  小さく笑った俺は、魅惑的な白根さんの唇に、キスを落とした。  柔らかな唇の感触に堪らなくなった俺は、貪るように白根さんに口づける。  苦しさに塗れて、何度も何度も口づけた。  食べてしまいたい。  食べ尽くしてしまいたい。  血の一滴すら溢さないように。  唾液の一滴すら溢さないように。  総てを俺の中に取り込んでしまいたかった。  口づけを落としながら、俺の手は、白根さんのシャツの裾を無理矢理に引き出し、隙間から肌を舐める。  堪らず、白根さんの喉仏に噛みついた。 「ぃっ……」  白根さんは、噛みつく俺の頭を、引き剥がす。  窺うように向けた視線に、くっと眉根を寄せる白根さんの顔が映る。  俺の心を煽り立てる、白根さんの瞳。  嫌悪と、拒絶と、……少しだけの、期待。  顔を上げ、白根さんの頬を両手で包み込んだ。  離れた唇から、はぁっと吐かれた白根さんの息は、溜め息なのか、高揚の表れなのか……。  薄く開いた瞳に映ったのは、赤く染まった白根さんの肌だった。  堪らなくなった俺は、そのまま、くるりと身体を回転させた。 「ぅ、わっ………」  急に回転させられた白根さんの足は縺れ、そのままソファーへと腰を落とす。

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