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第45話 外せない鎖 <逃亡拒否> 5
俺は、抹樹の頭をぐっと押し戻す。
唇を放した抹樹は、きょとんとした瞳を俺に向けた。
「違うっ、…いつも、の……」
言い淀む俺に、抹樹は、言葉を読み解く。
気付いた抹樹は、堪らないと言わんばかりに、ぶはっと吹き出した。
何を笑っているのかわからない俺は、ぐっと寄る眉根のままに、抹樹を睨みつけた。
「ははっ…ごめんね、白根さん」
ふふっと笑いが止まらない抹樹に、俺は訝しげな瞳を向け続けた。
はぁはぁと息を継いだ抹樹は、涙の滲む目尻を指で擦り、言葉を紡ぐ。
「あれ、普通の飴玉」
くくっと詰まるように笑いを漏らす抹樹。
「え……?」
俺は、抹樹の予想外の言葉に、素っ頓狂な声をあげた。
「白根さんはね…」
抹樹は、俺の肌の上に手を滑らせながら、言葉を繋いだ。
「俺の愛撫に感じてたんだよ…」
ちゅっと俺の首筋にキスを落し、抹樹は、ふふっと楽しそうに笑った。
認めてしまった感情に、屈辱の想いが鳴りを潜めた。
屈辱感を、全く感じない訳じゃない。
昇華しきれた訳じゃない。
それでも、抹樹になら、虐げられても悪くない…、そう思う、俺が居た。
そんな感情を認めてしまったら、表れるのは、羞恥の想いで。
ぞくぞくぞわぞわとした擽ったさが、胸を撫でる。
びりびりじりじりする痺れの中で、言葉を紡ぐ。
「こ、…こらっ。抹樹っ」
俺の首筋から胸許へと舌を滑らせていた抹樹が、ちらりと瞳を向けた。
俺は、抹樹の頭を掴み、引き剥がしながら、声を放つ。
「ベッド…、そこにあんだろっ」
抹樹は、きょとんとした瞳で、俺を見やる。
ヤるなら、ベッドで。
…この先の行為を拒んで居ない、自分。
恥ずかしさが、心を占める。
思わず、手の甲で赤く染まる頬を隠し、瞳を背けた。
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