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第52話 ちぎりたい鎖 <暴露> 2

「兄さん…?」  どこかで聞いたことのあるような声に、身体が、びくっと跳ね上がった。  抹樹以外の存在に、今更ながらに、両手で口を塞いだ。  目隠しをしているだけで、服は着たままだ。  でも、目隠しだけでも、充分に俺の格好は、おかしいだろう。  その上、ベッドには、いかがわしい玩具が広がっている。  慌て、目隠しを外そうとする俺の腕を、抹樹に掴まれる。  心臓が、バクバクと、激しく鳴り響く。 「何?」  抹樹は、なんでもないコトのように、声の主に向け、平坦に言葉を紡ぐ。 「ぁ、あのさ…」  困ったように、動揺するように揺れた声が聞こえた。 「借りれたぁ?」  再び別の聞き覚えのあるような声が、耳に届く。  くっと眉根を寄せる俺。  抹樹は、拘束している俺の両手を背中へと回す。  気づけば、するりと這わされた紐に、後ろ手に拘束されていた。 「はっ……?」  焦る俺を尻目に、抹樹は楽しそうに言葉を紡ぐ。 「イイコにしてて、下さいね」  耳許で小さな声を紡いだ抹樹は、俺の頬を一撫でし、傍を離れていった。  ギシッと軋むベッドの音と静かな足音…、パタンと鳴る扉を閉める音に、抹樹が部屋を出たことに気付いた。  両手を拘束され、目隠しをされたままに、放置されるこの状況に、どうすればいいのか、わからなくなる。  どうにもならない現状に俺は、後頭部を壁に預け、見えない天井を見上げた。  ドガっとけたたましい音が、廊下から響いてきた。  見えないなりに瞳を向ける。  ほんの少しの時間を置き、部屋の扉が開かれた。 「白根さん、おまたせ」  そう言って触れる抹樹の手に、身体が、びくっと震えた。 「ごめんね、びっくりした?」 「何ともない」  強気に放った声に、抹樹は、くすくすとした笑いを漏らす。 「弟…、か?」  『兄さん』と掛けられた声に、相手は弟なのだろうと問うた。 「あぁ、うん。漫画貸してって」  抹樹は、何事もなかったかのように再びベッドへと乗り上げ、指先で俺の耳を擽る。 「…ンッ、…隣の部屋に、居るんだろ?」  今日は、止めようと付け加える俺に、抹樹は、笑いあしらった。 「大丈夫ですよ」  囁くように紡がれた言葉と共に、抹樹の唇が耳殻へと触れる。 「何が、…だ。人が居るなら、やらない」  唇から逃げるように顔を背ける俺の頬を大きな手が包む。  そっぽを向くように逸らせた顔を正面へと戻される。 「だから、白根さんに拒否権は、ありませんって」  くすくすとなる抹樹の笑い声と共に、耳の下の首筋を食まれ、ぞわりとした興奮が背を這った。

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