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第53話 ちぎりたい鎖 <暴露> 3~ Side M

 白根さんとの楽しい時間を満喫しようと思ったのに。  今日は、遅くなると言っていたはずなのに。  弟が、帰ってきてしまった。  弟の後ろから顔を出したのは、唇にも、耳にも、至る所にピアスを付けた男。  そう。白根さんに突っ込んだ、弟の友人、大地(だいち)だ。  自由だった白根さんの手を拘束し、目隠しを外せないようにした後、俺は部屋を出た。 「何を借りたいの?」  問う言葉に、弟の胤樹(かずき)は、上目遣いに俺を見やる。 「週末に買った漫画、貸してって」  ちらりと大地に視線を向ける胤樹に、俺の視線は、階下を見やる。 「それならリビングにあるだろ?」  少しキツめに放った俺の声に、胤樹は、ぴくっと肩を震わせた。  たぶん、こいつらは、わざと邪魔をしに来たのだ。  まぁ、いい。  大地には、お仕置きをしてやろうと思っていたし……。 「漫画、貸してやるけど、お前、お仕置きな?」  つんっと額を突く俺に、大地は、突かれた場所を押さえ、瞳を開く。 「へ? 僕、何もしてないよ?」 「何もしてなくない。突っ込んだろ、お前」  部屋に居る白根さんをドア越しに親指で指し示す俺に、大地は、ぷくっと膨れっ面をする。 「抹にぃの手伝いしただけじゃん」 「あれは、やり過ぎ」  …ま、そのお陰で、手に入ったとも言えなくもないが、そんなこと、大地には言ってやらない。  俺は、大地の尻をぎゅっと掴む。 「ひっ……」  掴まれた尻に、大地は、驚きを露に俺を見やる。 「綺麗にして来い」 「は? え? ヤダしっ」  ぶんぶんと首を振る大地の顔の横を俺の拳が通り越し、壁を殴る。  ドガっと激しい音が立つ。  手荒な壁ドンだ。 「大人しくいうコト聞けば、気持ちよくしてやるよ。暴れて痛い目みたい? 落として犯すだけだから、俺は、どっちでもいいけど?」  にっこりと笑えば、大地は、身体を震わせた。  大地の手は、胤樹の服の裾をぎゅっと握っていた。 「胤樹、手伝ってやれ」  俺の言葉に胤樹は、何か言いたそうに開いた口を、きゅっと閉じ、大地を連れ階下へと向かった。 「なぁ、胤樹。逃がしてよ?」  ぼそりと放った大地の声が聞こえる。 「逃がしたら代わりにされるから嫌だよ。仕方ないじゃん。覚悟しなよ」  返した胤樹の言葉に、心の中でくすりと笑った。  大地も胤樹も、俺のしようとしていることを察している。  胤樹も、その代わりにされるのは、嫌らしい。

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