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第57話 ちぎりたい鎖 <暴露> 7
指の半分も飲み込ませていない白根さんの手が、ぐっと逃げた。
「俺は、いいっ。そ、そもそも、もう勃たない……っ」
白根さんは、身体を包むタオルケットの前を深く重ね合わせ、困ったように視線を背ける。
もう、ヤる気も体力もないと言ったところか。
無理矢理に勃たせるコトも出来るが、乗り気じゃない白根さんに、これ以上強いても仕方ない。
ふっと、鼻から息を吐き、大地を解放した。
「出てっていいよ」
詰まらなそうに顎をしゃくり、扉を示す俺。
大地は、俺の気が変わる前にと、床に放られている衣類を抱え、逃げるように部屋を出る。
タオルケットにくるまり、困ったように瞳を彷徨わせる白根さんの横に腰を据えた。
「あいつは、大地。俺の弟の友達です」
俺の声にも、白根さんは真っ赤な顔のままに俯き続けている。
「白根さんを襲った高校生の1人。…学ランの下にパーカー着てたヤツ、覚えてます?」
ちらりと向けた視線に、白根さんの頭が小さく肯定の意を示す。
暴露するのは、賭けだ。
何て卑劣なヤツなんだと捨てられてしまうかもしれない。
だけど。
「そいつが、俺の弟の胤樹……。ごめんね、白根さん。あの事件の黒幕、俺なんです」
思わず、自分の手を眺めた。
電車の中で触れたスーツ越しの白根さんの尻の感触が、ぞわりとした興奮を、俺にもたらす。
「もっと、近づきたくて、……あいつらに協力させて、白根さんの弱味、握りました」
事実を知った白根さんは、大地にも胤樹にも、…自分を襲った高校生たちに、いつか何かをされるのではと、怯えるコトはなくなる。
……違う。軽くしたかったんだ。
白根さんを貶めてまで手にした罪悪感。
ちょっとした懺悔の思い、だ。
「嫌いに…、なりました?」
隣で小さく丸まっている白根さんに寄り掛かり、諦め半分で問うた。
タオルケット越しの柔らかなパンチが俺の脇腹を殴る。
「馬鹿野郎。今さら…だろ」
呆れるように放たれた白根さんの言葉に、深い溜め息が続いた。
でも、逃げない身体は、“嫌いではない”と俺に告げた。
こんな俺でも、許してくれた。
呆れの感情で怒りを払拭した白根さんは、情だけを手に、俺にその温もりを分けてくれる。
ぁあ、好きだ。すっげぇ、好き。
溢れた感情が心を埋め尽くし、白根さんを両腕の中へと包み、タオルケットごと柔らかく抱き締める。
甘えるように抱きつく俺に、白根さんの身体から力が抜ける。
自棄になり、諦めたとでもいうように、俺に凭れ掛かった。
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