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第61話 ちぎりたい鎖 <暴露> 11

 ちゅぷっと音を立て離れる大地の唇。  てらてらとした唾液が滴る唇を舐め上げた大地は、はあっと大きく息を吐く。 「ぅわ………、お前に、中出しした?」  オレの上から退こうと、軽く腰を持ち上げた大地のアナルから、隙間を縫うようにたらりと粘液が溢れた。 「出た。だって、この状態じゃ抜けねぇし」  腰の上にある大地の尻をむにゅりと掴み、言い訳を零す。  じっとりと嫌そうな瞳を向けてくる大地に、オレの汚れたシャツを指差した。 「お前だって、オレの服汚したじゃん。あいこだろ」  大地の方が、非を(こうむ)っている気もしなくはないが、お互い様ということで、手を打たせた。  上に着ていたシャツを脱ぎ、繋がっている部分に当てた。  既に大地の精液で汚れているシャツが、さらに汚れようが今更だ。  少しだけ浮いている大地の腰の下から、這い出るように身体を抜く。  オレが居なくなった場所に、シャツを下敷きにしたまま、一度座り込んだ大地は、疲れたように寝転がる。 「ちょ、寝る………」  言葉と共に、目蓋を閉じた大地。  オレは、湿気っぽい下半身をそのまま下着の中へと戻し、身形を直す。  気怠さに、うとうとしている大地を置いて部屋を出た。  何の物音もしない静かすぎる兄の部屋を覗く。  そこには、誰も居なかった。  たぶん兄さんは、あのオジサンを送りに出たのだろう。  玩具が散乱し、シーツやタオルケットがしわくちゃのままになっているベッド。  事後であるコトを物語り過ぎるその情景に、胃の底がキリキリとした。  大地を抱いた分、余計に身体が切なくなった。  兄を求めて、身体が、心が、ざわついた。  ベッドの脇に放られていたワイシャツを拾い上げる。  服に埋めた鼻で、兄の匂いを探す。  同じシャンプーの匂い。  同じボディソープの匂い。  同じ柔軟剤の匂い。  微かに漂う俺と違う体臭が、鼻腔を刺激する。  変態染みていると思う。  それでも、止められないのは、その匂いに安心するからだ。  その香に俺は、興奮よりも癒しを得る。  鼻先にシャツをつけたままに、見たくもないベッドへと瞳を向ける。  大地に使ったローションが、どんなものなのか知りたかった。  兄のコトだ、変な副反応があるようなものは使わないだろう。  思いながらも、念のために確かめる。  転がっているローションのボトルは1本だけだった。  手に取り、ラベルを確認する。  普通のじゃん……。  大地のあれ、何だったんだ?  一般的に売られているもので、怪しさは皆無だった。  媚薬を盛られたわけでもなさそうで、大地の盛り具合に首を捻った。  手にしたボトルを再びベッドへと放った。  鼻を埋めている兄のワイシャツを、泣く泣く剥がす。  元あった場所へと戻そうと、放とうとしたシャツに、ベッドの柵に中途半端に掛けられているスーツのジャケットが目に留まった。  内ポケットから飛び出した定期券のケースの端から、紙のようなものが覗いている。  何を挟んでいるのかと、好奇心を擽られ、その紙を引き抜いた。  半分に折られ印刷面が見えないそれを、そっと開く。  くっと眉間に皺が寄った。  それは、兄とあのオジサンが浴衣姿で映っている写真だった。  お互いに違う人間と話しているようで見詰め合っているわけでもない。  ただ、偶然撮れてしまったかのような、何気ない写真だ。  でも、2人の間には何かが繋がっているようにも見え、嫌悪が疼く。  見えない空気が、俺を焦らせた。  乙女のような兄の行為にも、不快感が背を撫でた。  ごちゃ混ぜになる感情に、腹が煮えた。  俺は無意識にその写真を半分に引き裂いていた。  ビリッと音を立て、破れた写真に、ふと冷静さが顔を出す。  すっと、血の気が引く。  バレたらただでは済まないだろうコトは容易に想像できた。  かといって、破れる前へ戻すなど不可能で。  オレは、直ぐにバレると知りながらも、破った写真を再び、定期券のケースへと戻し、自室へと逃げた。

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