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第62話 ちぎりたい鎖 <暴露> 12~ Side S

「ぐ…んンっ、……倉田。それ」  倉田の名を呼ぼうとした俺の喉が、ガサついた音を発し、咳払いで軽く整え、再び口を開いた。 「なしたの? すんげぇ声だな?」  あからさまに、眉根を寄せる倉田に小さく鼻で溜め息を吐いた。  昨日、抹樹に啼かされ過ぎたせいだなどと、口が割けても言えやしない。 「部屋が乾燥してて。起きたらこれだよ」  困り顔で笑む俺に倉田は、呆れた瞳を向けた。  抹樹にされた目隠しを外せば、目の前には下半裸の男。  その男に、見覚えがあった。  俺を犯したピアス男、だった……。  後ろから膝を持たれ、両足を開かされた格好で、股間を曝す。  羞恥以外の何ものでもない屈辱的な格好に、男は真っ赤に染まった顔で不服げに瞳を逃がした。  抹樹に取られた手が、男の孔の中へと押し込まれる。  女の中に入るのとはまるで違う、ぐにゅぐにゅと締め付ける感覚に、ぞわりと悪寒が走った。  男ならば、突っ込むべきなのか。  でも、俺は抹樹に興奮を感じても、男の半裸には何も思わなかった。  ヤる気のない俺に、抹樹は男を放つ。  抹樹は、裏で糸を引いていたのは、自分だと暴露した。  痴漢も、強姦も。  そこまでして抹樹は俺を手に入れたかった。  ……思うと、心の底が擽ったかった。  俺は、暴かれてしまったんだ。  お前の想いが、俺の『常識』という檻を破らせた。  思いに耽る俺の意識を呼び戻すようにSNSの通知音が鳴る。  手にしたスマートフォンには、抹樹からのメッセージが表示される。 『喉、大丈夫ですか?』  メッセージの言葉とは裏腹に、共に送られてきたスタンプは、嫌味に、にたりと笑っていた。  誰のせいだと思ってるんだっ。 『馬鹿野郎』  苛立たしさに、短い文字を返信する。  あまりの腹立たしさに、チッと舌が鳴った。 『あとで飴、あげますね』  飴の文字に、ぞくりと背が粟立った。  文字にすら敏感に反応してしまう身体に、溜め息が漏れる。 『いらん』  素っ気なく返す文字に、画面の向こうでくすくすと笑っているだろう抹樹の姿が脳裏に浮かぶ。 『そんなこと言わないで下さいよ』  うるうるとした瞳で見つめる猫のスタンプつきの返答に、泣きそうになどなっていないクセにと嘆息を吐いた。  連なる文字の羅列。  数分と開けずに返ってくる抹樹の言葉と、短く素っ気ない俺の応答。  冷たくあしらっているように見える俺の文字だが、返してしまっている段階で、構わずにはいられないと言っているようなものだ。  この歳になって、こんなにマメに、やり取りするなど……思ってもみなかった。  擽ったさに火照る顔を手の甲で擦り、恥ずかしさを誤魔化した。

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