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第64話 ちぎりたい鎖 <暴露> 14
数分の緊迫と沈黙。
「お前だろ?」
追い込む俺に、胤樹は、目の前の写真を手で払い除ける。
むすっと顔を歪めたままの胤樹が、俺の胸に、ぽすりと頭を預けた。
顔の横まで持ち上げた両手で、俺のジャケットを握り締め、ぽつりと零す。
「やだ…………」
胤樹は、白根さんに嫉妬している。
俺を取られたくないと、言葉にできない我儘を体現し、全力で拗ねた。
その姿は、駄々を捏ねる子供そのものだ。
胤樹を疎ましく思う俺の気持ちが、自分勝手なエゴであるコトは、わかっている。
それでも胤樹には、俺から卒業してもらわなくては、困る。
縋るように俺のジャケットを掴む胤樹の頭を、ぽんぽんっと叩いた。
「少し、話をしようか?」
柔らかく放ったつもりの声だが、奥底からじりじりと沸き上がる苛立ちに、威圧感を纏う。
写真を破られたコトへの怒りと、俺の邪魔をする胤樹の疎ましさが、腹の底にドロドロとした不快感を生む。
胸許の胤樹を剥がし、ベッドへ腰かけた。
おいで、というように両手を広げれば、胤樹はおずおずと俺の腿を跨ぎ、膝に乗る。
そのまま撓垂れかかるように抱きついてきた胤樹は、甘えるように俺の肩口に額を擦りつける。
「俺の大事なものだって、わかってんだよね?」
床に落ちた半分に千切られた写真を見詰めながら、胤樹の後頭部を撫でる。
渋々ながらに小さく頷く胤樹に、はぁっと重たい息が零れた。
「消えちゃえばいいのに……」
ぼそりと放たれた胤樹の言葉に、ぴくりと頬が引きつった。
「あの人に取られるくらいなら、オレ、あいつ殺したい。この世から、消しちゃいたい……」
身体に回された胤樹の手が、ぎゅっと俺のジャケットを握り締める。
本当にやらかしそうな張り詰めた雰囲気を纏う胤樹に、俺は空気を解くように、緩い声で言葉を紡ぐ。
「殺したって、俺は胤樹のものには、ならないよ」
顰めっ面の胤樹の瞳が、俺を見やる。
不服げに歪んでいたその顔は、どうしてだというように、哀しく歪む。
「こんな風にした責任取れって言われたんだよ。ちゃんと責任果たさないと、だろ?」
そんな身勝手な言いがかりなど無視してしまえばいいと、胤樹は顔一杯に不満を貼りつける。
「兄さんのせいじゃない……」
不服そうに言葉を紡ぎ、むすりと顔を歪める。
「ま、責任なんてなくても、俺は胤樹のものにならないけどね」
苛立ちに荒れていた胤樹の表情は、再びの悲哀に塗れた。
「……もう消えないんだよ」
困ったね…と、解決策の見えない問題にお手上げだというように眉尻を下げた笑みを浮かべた。
俺の心の中には、白根さんがいる。
1度住み着いてしまった想いは、例えその肉体が失われたって、消えたりしない。
まして、予測しない消滅は、より強く俺の心を占拠するだろう。
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