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第66話 ちぎりたい鎖 <放置> 1~ Side S

 昼を告げるチャイムの音に、仕事の進捗を伝える報告会が終わる。  会議室を出ようとしている抹樹の姿を、ちらりと窺った。  交わったはずの視線はすぐに外され、抹樹はスマートフォンを弄り、会議室を後にする。  俺宛に何か連絡が入るかと、ポケットにあるスマートフォンを触ってみるが、ぶるりとも震えない。  取り出してみたところで、その画面は真っ暗なままだ。  再び向けた瞳には、俺を拒絶するように閉められた扉が映るだけだった。  もう、飽きたのか……?  釣った魚にやる餌は、ないというコトか?  送信できない言葉が、頭の中に貯まっていく。  明かりを灯したスマートフォンに打ち込んでみたところで、次の瞬間には“DEL”の文字を連打する。  書いては消しての繰り返し。  消し去った文字が、抹樹に届くコトはない。  何をやっているんだ…、俺は。  自分の無意味な行いに溜め息を吐き、スマートフォンの画面を暗くする。  毎日、何度も鳴っていたスマートフォンは、すっかり音を失った。  音を失ってから、…1週間。  その間、抹樹のスマートフォンも、俺からの音は鳴っていない。  自分からアクションを起こせるような(たち)でもない。  何か怒らせるようなコトでも仕出かしたのかとも考えたが、思い当たる節はない。  それに怒っているのなら、抹樹のコトだ、こんな回りくどい方法ではなく、実力行使してくるだろう。  じゃあ、なぜ?  何を考えているんだ……?  抹樹の考えが、微塵もわからない。  掴み所のない抹樹の性格は、俺を惑わせる。  だからといって、なんのつもりだと詰め寄るコトも出来ない。  ただ、連絡が途絶えただけ。  ただ、俺をかまわなくなっただけ。  自分からアクションを起こさない俺に、抹樹を責める資格などない。

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