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第68話 ちぎりたい鎖 <放置> 3

「いや。してんの……」  放置されているコトにすら気づかない鈍い俺。  そんな俺に、抹樹は焦れて苛立っているようだった。  いい歳して、空気も、ろくに読めていなかった。  違う。  盲目に…、なりすぎていた。  抹樹の想いを疑うことを…、忘れていた。  いつでも恋は疑いが必要で。  愛されているコトに溺れれば、安心してしまえば、相手は俺に飽きるのだ。  そこに待っているのは、落とし穴で。  油断して踏んづけて、俺は、暗い穴の中に、転がり落ちる。  落ちた先には、光など射さなくて。  誰も手を差し伸べてなど、くれなくて。  苦しくて、辛くて、息が詰まって、生きていることすら、嫌になる。  でも、時間は過ぎていく。  心に刻まれた傷は、次第に痛みを失う。  そうやって、忘れて、また、恋に落ちてきた。  痛みと幸せの繰り返し。  それが、俺の恋愛パターンじゃないか。  そんなこと、ずっと前に、気づいていたじゃないか…。  また俺は、油断したんだ…。  飽きられ…、たんだ。 「そろそろ俺を卒業して欲しいんだけどなぁ……」  疲れたように呟かれた抹樹の声は、仰いだ空へと投げられた。  ここ1週間の静寂は、もう飽きたから、かまうなというコト。  あの暴露は、俺を遠ざけたかったから…俺に飽きて、どうでもよくなったからというコト。  したいコトは、やり尽くしたから、俺はもう用済みで。  冷たくあしらえば、勝手に離れていくだろうという抹樹の目論見だとすれば、筋も通る。 「一生とか言わないでよ。頭、痛くなる……」  気持ちの機微に鈍い俺に、抹樹は頭を抱えている。 「あと1週間。……1週間後にはケリつくから。あとは任せるよ」  俺と関わらない生活に慣れろ、と。  静かなこの時間は、俺をふるための抹樹なりの準備。  俺は知らぬ間に、じりじりと崖の端へと追い立てられていたのだ。 「好きにしていいよ。大地がそうなった原因だろうしな」  俺は、1週間後にはふられ、誰かに差し出されるらしい。  俺に残された時間は1週間。  1週間後には、捨てられるのか……。  重い足が、一歩を踏み出した。  盗み聞いて、いいコトなど何もなかった。  自分の愚かさに、呆れを通り越し嗤いが生まれた。  俺に飽きて。  俺と離れたくて。  …こんな、まどろっこしい方法をとらなくてもいいじゃないか。  そんなに俺が鬱陶しいなら、俺に繋がる鎖など、早々に千切ってしまえば、いいのに……。  待つ必要などない。  俺が見限り、突き放してしまえばいい。  そんなに嫌なら、離れてやると自分から手放せばいい。  思うのに。  俺は繋がった鎖を千切るコトも、手繰るコトも出来なかった。

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