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第69話 ちぎりたい鎖 <放置> 4~ Side M
白根さんは、何でもない風体を装いながら、俺を気にしている。
ちらちらと向けられる視線。
気づいているけど、知らないふりを通した。
少しは俺を、気にして欲しくて。
少しは俺を、必要として欲しくて。
胤樹を優先すると約束をし、1週間が過ぎた頃。
大地の兄、勇気 から電話が入った。
いつも、ろくな話題じゃない勇気からの電話に、人目を避け、外階段へと移動しながら通話をタップした。
『ぁ、まぁちゃん?』
取った電話に、馴れ馴れしい名で呼ばれ、思わず笑いが零れた。
「″まぁちゃん″なんて呼ぶの、お前くらいだよ」
勇気とは、小さな頃からの友人で、俗にいう幼馴染みという間柄だ。
俺と勇気、胤樹と大地が同じ年で、自然と家族ぐるみで仲良くなっていた。
『まぁちゃんは、まぁちゃんでしょ。そんなコトよりさ、うちのだいちゃんに何したの?』
不貞腐れたような音を纏った勇気の声に、俺は眉を寄せ、記憶を探る。
白根さんに突っ込ませようとした時か。
察しのついた俺は、つらっとした声を返す。
「大地? 俺は何もしてねぇよ?」
素知らぬ雰囲気で発した俺の言葉に、勇気の疑惑塗れの声が戻ってくる。
『おかしいね? あいつ、この前、腰擦りながら帰ってきたんだけど?』
俺の性格も性癖も知っている勇気は、俺が大地を手篭めにしたのだと、疑っている。
「……知らねぇよ。俺じゃねぇって」
実際問題、俺は大地に手は出していない。
大地とヤったのは、胤樹だ。
白根さんを送っていこうと部屋を出た際、必然的に胤樹の部屋の前を通った。
耳を澄まさなくても聞こえた2人の獣染みた呼吸音と、ベッドの軋む音。
簡単に、察しがついた。
白根さんはその音に、驚いたように一瞬瞳を向け、慌て足早に通り過ぎた。
後ろから見ていてもわかるほどに、頸と耳の端が赤く染まり、可愛かった。
『お前じゃなくても、お前が引き金だろ? お前が、おっさん襲わせたんだよな? そのくせ、やり過ぎだってイラついてたよな?』
引き金を引いたのは、確かに俺だ。
でも、大地が腰を擦りながら帰ったコトと、白根さんは関係ない。
白根さんを襲わせ、やり過ぎた大地に苛立っていたコトは認める。
でも、その仕返しに、白根さんに大地を抱かせようと試みたが、不発に終わった。
「白根さんは、関係ないよ」
白根さんに、とばっちりを食らわせる訳にはいかない俺は、先手を打つように声を放つ。
『関係なくねぇだろ』
白根さんを巻き込もうとする勇気の声音に、俺は言葉を重ねた。
「無理矢理だし、マジで関係ねぇよ」
勇気の苛立ちの矛先が白根さんに向くのは、何としても避けたかった。
弟を大事に思う勇気が本気で怒れば、白根さんに何をするか、わかったもんじゃない。
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