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第75話 ちぎりたい鎖 <放置> 10
卒業して、離れてやる…なんて。
俺が白根さんを捨てたがっているみたいじゃないか。
手にした資料をとんとんっと床へと打ちつけ、揃える。
……かまってあげなかったから、か。
そう思われても仕方がない、のかな。
俺の欲求が解消されれば、それでいいと…、身体の為だけに、一緒に居ると思われていたのかな。
俺は、ちゃんと伝えたのに。
好きだと…、貴方のコトを可愛いと思っていると言葉にしていたはずなのに。
2週間の空白は、それを塗り潰すに値したということで。
飽きてしまえば、興味は薄れるもの。
白根さんに対する俺の興味が、消え失せたと思われたのだろう。
でも、好きの気持ちは、…好意は、薄れたり、消えたりするものじゃない。
俺の心は、白根さんへの想いで溢れてる。
こんなエンドは、いただけない。
俺は、再びファイルに閉じた資料を手に白根さんのデスクに向かう。
そこに白根さんの姿はなかった。
この資料を白根さんのデスクに置いてしまえば、話す機会を失う。
俺は、それを自分のデスクの脇に置き、仕事を再開した。
数分後、戻ってきた白根さんに、ファイルを差し出した。
「白根さん、これ……」
「悪い。それじゃなかったんだ。あとで戻すから、その辺に置いといてくれ」
俺の声に被せるように冷ややかな音で言葉を放った白根さんは、別のファイルを持参していた。
ファイルを捲る指先。
白根さんの瞳は、その資料に注がれ、俺を見ない。
「あの……話…」
俺の言葉に、ちらりと上がった白根さんの瞳は、酷く褪めていた。
「…言わせるな。俺は、もうお前と話すことなどない」
言い切られ、俺は白根さんの意識から弾き出されてしまった。
“お前と話すことはない”…その言葉には、“お前と俺は、もう何の関係もない”という裏の意味を滲ませていた。
俺への興味は失せたと、…俺に魅力を感じないという褪せた気持ちが乗っていた。
それほどまで、俺は白根さんを怒らせてしまったということで。
突き放され、千切られてしまった俺は、食い下がるだけの気力がなかった。
時間が経てば、少しは怒りが収まるかと思い、帰り際、白根さんを待ち伏せしてみる。
これ以上怒らせるなというようなオーラを纏った白根さんの冷たい瞳が、俺を一瞥するだけだった。
それから、SNSはブロックされ、傍に寄ろうとすれば、逃げられた。
仕事の話はしてくれても、プライベートな話は、悉く避けられた。
……取りつく島もない。
俺、捨てられた? フラれたのか…?
そもそも、俺たちは、付き合ってたのか?
俺は確かに伝えた。
“好きだ”と告げた。
でも。
“責任を取れ”とは言われたけど、“好き”とも、ましてや“愛してる”なんて言われたコトなどない。
“付き合おう”なんて、当たり前だけど、言われたコトも言ったこともない。
……俺は、付き合ってるつもりでいたけど。
俺たちの関係を表す単語が思いつかない。
セックスフレンドというほど、捌けた軽い関係でもなく。
恋人というほど、濃密な重い関係でもなかったらしい。
白根さんは、俺が責任を感じて、一緒にいたと思っていたのか?
脅され、身体を変えられてしまったからと仕方なく、俺の傍に居たの?
白根さんのコトだけを考えるために、胤樹を優先した。
俺を必要として欲しくて、少しだけ離れるコトを選んだ。
離れれば、俺を想い焦れてくれると思っていた。
……俺は選択を、間違えた。
今さら思っても、それはもう手遅れで。
この歳になって、いい歳のオジサンを捕まえて、改めて“好きです。付き合ってください”なんて、子供みたいな告白は出来ない。
思っていたけど、伝わらないなら。
言葉にして、声にして、俺は伝えなくちゃいけなかったんだ。
だから。
ねぇ。白根さん。
お願いだから、話をさせて…。
放置する方が辛いと思っていた。
される方もこんなに苦しかったんだ。
ごめんね、白根さん。
虐めすぎた、…ね。
拗ねないでよ。
お願いだから、逃げないで。
話をさせてよ……。
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