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第76話 ちぎりたい鎖 <説教> 1~ Side S
必死に興味の失せたふりをする。
せがむようなその瞳にも、素知らぬふりをする。
飽きたからと捨てたのはお前の方。
都合のいい相手になど、なってやるものか。
家に帰り着き、疲れた身体をソファーへと沈めた。
遠くで吠える犬の声が、微かに聞こえる。
部屋の中を視線で探り、ソファー横のサイドテーブルに置かれている小さな箱を目に留める。
その中に入っているのは、映画館で俺の中に入れられた玩具だ。
お散歩だと称し、犬用の首輪をつけられ連れ回された。
周りにバレるのではないかと、ひやひやしながらも、興奮に身体が熱くなった。
思い出した感覚に、背が震え始めた。
疲労からなのか、ギラギラとした欲求が腹底を混ぜる。
抜いてスッキリしてしまおうと、ベルトを緩め、前を寛げた。
もぞもぞと股間を弄りながら、中途半端に昂る身体に、AVを探る。
男女のなんの変哲もない作品を見ても、それなりに興奮はするものの、どこか物足りない。
「はぁ………」
誰もいない部屋に、俺の溜め息が響く。
ソファーから少しだけ腰を上げ、だらしなく前を寛げたままに、見えていた小さな箱に手を伸ばす。
抹樹との思い出がこんな卑猥な玩具1つだなんて……。
蓋を開け、中身を見やりながら、再びの溜め息が口を衝く。
感傷に浸ったところで、抹樹の心を取り戻せる筈もなく、身体をゆったりと這う熱は、じわじわと熱さが増していく。
「ぁあ、くっそ………」
箱の中から荒く玩具を取り出した。
スイッチを入れれば、ウィーンっと低く唸りを上げる。
蘇る自分の痴態。
映画館の中で、散々に弄ばれた。
電車やトイレでも悪戯され、さすがに青姦はないが、弟たちに襲われたのは外だ。
透明なガラスの前で、暴かれたコトだってある。
恋人のような交わりは、抹樹の本性じゃない。
優しく柔らかく包み込むようなセックスではなく、獣染みた本性を炙り出すような交わりを好む。
……違うな。
俺が、それを望んでいたんだ。
窮屈な“普通”という箱からはみ出るコトを望んでた。
許容範囲を越えた恥ずかしさに、俺の理性は仕事を放棄し、痴態を曝す。
暴かれた本性が、抹樹に撓垂れる。
もっと、もっと、と際限なく、悦楽を強情る。
震える玩具を掌の中へと包む。
痺れるように揺らされる掌と、低く響く振動音。
奥が疼く。
抹樹にしか許していない身体の奥が、求めて啼く。
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