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第80話 ちぎりたい鎖 <説教> 5
そういうコトかよ……。
最近の大地の行動が、腑に落ちた。
兄がオレを突き放したって知ってるから。
だから、ここぞとばかりにオレに言い寄って来ていたというコトだろう。
…オレのコトよろしくとでも、言われてんだろうな。
「いいじゃん、僕に甘えなよ。えっちの主導権は譲るから」
両手を広げた大地が、おいでとオレを呼ぶ。
「なんだよ、それ……」
大地の言葉に、溜め息混じりの声を漏らす。
お節介にも程がある。
大地は大地なりに、オレを元気づけようとしているのかもしれないけど、無駄骨だ。
大地じゃ、物足りないんだ。
あの包み込むような安心感は、大地には産み出せないし、求めてもいない。
ベッドを横目に、引きずり出した部屋着のTシャツを被る。
「うりゃっ」
「ぉ、わ…………っ」
シャツで視界を塞がれているオレの腰に抱き着いた大地に、ベッドに引きずり込まれた。
ベッドに引き倒されたオレの腹の上に、大地が乗る。
すぽっと頭を出し、Tシャツの袖に腕を通しながら、オレの腰を跨ぎ座る大地を、冷めた瞳で見上げた。
「抹にぃにかまってもらえなくて、淋しいでしょ? 僕で埋めればいいじゃん」
せっかく着たTシャツを脱がそうとする大地を押し止めながら、声を返す。
「オレが淋しいとかは、どうでもいいんだよ。兄さんの元気がねぇの。そっち方が気掛かりなんだよ」
腹に乗っている大地の腰を両手で掴み、退けろというように、持ち上げる。
そろそろオレがキレそうだと察した大地は、詰まらなそうに口を尖らせながらも、そこから退いた。
「そんなの直接聞けばいいじゃん」
オレの横に腹這いになった大地が、脚をバタバタと遊ばせながら言葉を放つ。
「兄さんに聞けると思う?」
きゅっと寄せた眉で無理難題だろと紡ぐオレの声に、大地は、きょとんとした顔を見せた。
「抹にぃに聞くんじゃなくて、あっちに聞けばいいじゃん」
あっちとはオジサンのコトかと考えるオレを横目に、大地の言葉は、そのまま続く。
「最寄り駅も知ってるし、帰ってくる時間も何となくわかるし、…僕たちが抹にぃの悩み解決したら、株も上がりそうじゃない?」
にたっと笑む大地に、オレは,がばりと身体を起こした。
「行ってくるわ」
起き上がり、今さっき着た部屋着のスウェットを脱ぎ捨てる。
「いや、僕も行くし」
のそっと上体を起こした大地も、ベッドから立ち上がる。
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