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第81話 ちぎりたい鎖 <説教> 6~ Side D
全然、靡かねぇでやんの。
勇にぃから、今がチャンスだって聞いたのに、全然じゃん……。
抹にぃに、邪魔するなって言われて、ブラコン卒業するしかないはずなのに。
その出来た心の隙間に、僕のコト入れてくんないかなぁ。
少しだけ、僕のコトも見て欲しいだけなのになぁ。
わざわざ目立つ制服で出歩くコトもないから、胤樹の服を借りるコトにした。
胤樹が着れば普通の長さなのに、僕が着ると少しだけロンT感が出るのが否めない。
着替えの最中、嗅ぎ慣れない匂いが僕の鼻腔を擽った。
胤樹の匂いだ。
長い袖口を、思わず鼻先に寄せる。
「洗濯してあるから臭くねぇよ。てか、嫌なら貸してなんて言うなや」
嫌そうに瞳を細める胤樹に、僕は目の前でぶんぶんと両手を振る。
「嫌とかじゃなくてさ。長いなって」
溜め息混じりの空気を吐いた胤樹は、僕には長すぎる袖と裾を適当に折り上げる。
「これでいいだろ」
「さんきゅー」
胤樹は胤樹で、ジーンズに履き直し、パーカーを羽織る。
「行くぞ」
声を放った胤樹が、先に立って階段を降りていく。
胤樹がこちらを向いていないのを良いコトに、僕はまた、服の匂いを嗅いでいた。
自分の物とは、違う匂い。
何だか胤樹に触れているようで、気分が上がる。
本人が目の前にいるのに触れないし、物事は思ったようには進まない。
何度も美味しい思いをすれば、…気持ちよくなれば、そのうち絆されてくれるかな……なんて、甘い見通しを立てていた。
2度目のお誘いは却下され、計画は簡単に崩された。
知ってるけどさ。
胤樹が好きなのは、ちょっとアウトローな大人の男、だもんね。
……抹にぃ、だもんね。
ピアスを開けて悪ぶってみたって、どう転んでも僕に“カッコイイ”の要素は足りない。
抹にぃに比べれば、頼りないに決まってる。
20歳にも満たない僕に、大人の色気なんて出せるはずもない。
株が上がるんじゃないかっていう一言に、急に元気になっちゃってさ。
抹にぃを餌にするしか、胤樹を操る方法がないなんて。
なんだかなぁ……。
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