83 / 90
第83話 ちぎりたい鎖 <説教> 8
「もう、関係無いんだよっ」
切り捨てるように放たれた声は、言葉尻も、纏う空気も、白根の方が関係を切りたがっているように感じられる。
「あんたが勝手に別れたと思ってるだけだろ。別れたがってるだけだろっ」
自棄糞に放たれた白根の言葉に、胤樹が噛みついた。
「兄さんに、責任取れって言ったんだよな? じゃあ、お前も責任取れよっ。あんな骨抜きにしといて、惚れられたら捨てんのかよ? 兄さんで遊ぶなっ!」
叱るような胤樹の声が、白根の怒りに火をつける。
「遊んだのは、お前の兄貴だろっ。飽きたんだろっ。飽きて捨てたのは、お前の兄貴だッ」
自分の言葉に、捨てられたのだと再認識した白根は、悔しげに自身の髪を握る。
「いっつもそうだっ……。こんな面白味のない人間、直ぐ飽きがくるんだ」
悄気て肩を落とした白根が、自分自身を嘲り、鼻で嗤った。
「俺は所詮この程度。飽きられて捨てられるコトくらいわかってたよ。見えていた未来…、思った通りの結末だ」
ははっと笑う白根の声は、乾いて掠れる。
今までの恋愛に当て嵌めて、落胆する。
だてに歳を食っているから、豊富な恋愛経験が、…悲しい失恋経験が、白根に諦めの気持ちをもたらす。
いつものことなのだと大人特有の引き際の良さを見せた白根は、格好悪く足掻いたりしない。
「恋愛にお決まりのパターンなんてねぇんだよっ!」
怒鳴り声に驚き、胤樹に視線を向けた。
胤樹の立場なら、白根が諦めて引いてくれた方がいいんじゃねぇの?
抹にぃが、胤樹の元に戻ってくるじゃん。
きょとんと見やる僕に、胤樹の怒号はその勢いを失わないままに、白根にぶつかっていく。
「相手にしてんは人だぞ? 人間に同じヤツなんていねぇんだよっ! 型に嵌めんな、偏屈オヤジっ!」
なんで胤樹が諦めようとしている白根を引き留めるのか、訳が解らない。
唖然としている僕を置き去りに、チッと舌を打った白根は、胤樹の怒りの火に油を注ぐ。
「どうせオヤジだっ。お前らみたいに若くねぇよっ。余裕もねぇよっ。こんなおっさん、飽きられても仕方ねぇんだよっ」
ん? んん?
ヤバい? ヤバイよね、これ。
ボルテージが上がっていく2人の言い合いに、僕だけが青褪めていく。
ともだちにシェアしよう!