87 / 90

第87話 ちぎりたい鎖 <説教> 12~ Side M

 何がどうなって胤樹が白根さんに絡んだのか、わからない。  ただ、大地の連絡から読み取れた危機感に、白根さんの元へ走った。  今にも殴りかかりそうな胤樹に、俺は先に手を上げる。  そんな俺は、白根さんに一喝された。  大事な人に危害を加えるなら、俺は弟だろうと許す気はない。  俺の逆鱗に触れたコトを悟った胤樹は、素直に謝罪を紡ぐ。  更に、大地までもが胤樹を守ろうと動く。  再びの暴力に及ばないようにと俺の腕を掴む白根さんの手の感触。  避け続けられた白根さんと話す機会が出来た。  それだけは誉めてやろうと、俺は腕を掴む白根さんの手を握り直し、その場を離れた。  落ち込み頽れた胤樹は、大地に任せることにした。  胤樹に思いを寄せる大地。  胤樹コトは、大地に任せれば何の心配もないと判断した。  少し離れた場所まで歩き、公園に足を踏み入れる。 「いい加減に放せよっ」  握られている手を逃がそうと、立ち止まったりしながらも、白根さんは俺に引かれるままについてくる。  無言のままに手を引き、白根さんをベンチに座らせた。  胤樹への苛立ちをそのままに、ここまで連れてきた俺。  俺の有無を言わせない強引さに、白根さんは少し困惑しながらも従う。  訝しげな瞳で目の前に立つ俺を見上げる白根さんの腿を跨ぐように、その脚の上に座った。  抱っこをせがむ子供のような俺の行動に、白根さんの眉間の皺が深くなる。 「……どこ座ってんだよ」  それなりの身長とがたいのいい俺が、甘えるように白根さんの膝に座る様は、ひどく滑稽だ。 「だって、こうしないと白根さん、逃げるでしょ?」  静かに言葉を紡ぎ、目の前の白根さんをぎゅっと抱き締める。  はぁっとわざとらしい溜め息を吐いた白根さんは、心底嫌そうに声を放つ。 「重い。退けろ」  俺の身体を剥がそうとする白根さん。  脚に力を入れている俺は、白根さんに体重をかけてはいない。 「白根さんには体重かけてないですよ」  重たいわけないじゃないですか、と拗ねるような音で言葉を紡ぐ俺に、呆れたような息遣いが聞こえる。 「変な目で見られるだろっ。降りろっ」  早くしろと急かすように、背を叩かれたが、俺はその場から動かなかった。 「いいですよ、別に……」  好奇の視線に曝されたって、ひそひそと陰口を叩かれたって、俺はこの場を離れたくない。  やっと触れた温もりと、白根さんの香りを放したくなかった。  白根さんの首筋に顔を埋めたまま、口を開く。 「ごめん、ね………」  兄弟喧嘩に巻き込んで、ごめんなさい。  放っておいて、ごめんなさい。  離れられなくて、ごめんなさい。  なにからどう謝れば良いのかわからなくて、ただ謝罪の言葉を紡いだ。

ともだちにシェアしよう!