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第25話 連休明けの講師

「マズイなこれは…」 連休の最後の日、私は高校の顧問である写真部の、学生たちと連絡をとり終え、一息ついていたところだ。部の撮影旅行を終えて、無事地元に戻ってきたという。何事もなく一安心だ。 そう思い、パソコンのもう一つの窓を広げ、静止画SNSを開いて見ていたところ。 その画面に見覚えのある男の子の裸体が、私の目の中に飛び込んできたのだ。 その子は、ひと目で、津田蓮と解った。顔がボカシもなく明るく晒されていたから。 しかも痴態という言葉以上に、妖しく艶やかしく、男の私から見ても『そそられる』姿をしている。これが束縛痕を残した幼い体つきであった事が、その感情をさらに増幅させていたのかもしれない。 ハッキリ言って、こんなの、25禁、いや、30禁くらいの扱いをされても当然の内容である。 それが世界に配信されている。 「マズイなこれ…」 私はもう一度呟いた。私はこの子の高校の教師であり、しかも連休明けの明日の1時限目から授業を受け持っている。 あと十数時間後に、その子と対面して授業をしなければならない。 しかもだ。その子は、小学・中学と、不登校の経歴を持っている。高校に入ってきた時に、中学卒業の頃から、中学の先生たちと連携して見守って来ていた。相談相手にもなった。 その甲斐あってか、高校生活は1年以上無欠席無遅刻の、良き学生生活を送っている、ようだ。 そんな子が、またこういう行動を起こしている。 津田のヌード画像は、私が知るのは、これで4回目だ。回を重ねるごとに過激になってきている。 ハッキリ言って、高校の講師でパソコン関係に明るい人は、そう多くはない。SNSをやっている人はいるだろうが、専門性の高いジャンルなどは入ってこない。 だから、今までの3回も、学校に伝わるより先に削除申請したりしてきた。おかげで学校側に知られることは、ほぼ無かった、ようだ。 しかしそれが、明らかに他の人の手を介した様相の体が映し出している。つまりこれだと、別の方面から声が上がってくるのではないかと、私はその方向を気にした。 その時、思った。我が顧問である写真部の部員。おそらくあのメンバーも、これを見ることになるだろう。今までの3回も、学生たちと情報共有してきた。最近は学生の方が、発見が早くなってきている。 「まずは、管理者に報告は入れておくか。」 最近は、通報から削除までの時間が早くなってきている。クレーム処理はなかなか有効な手段だと考えているが。 次の日の朝。職員室に行ってみて、案の定、画像についての意見は、ひとつも出なかった。 まずは、第一段階はセーフだと思う。あとは、写真部のことと、津田の本人の問題だ。 写真部からは、あれからひとつもの連絡が入ってこない。 みんなが見た頃には削除されたのか、それとも秘密にして話していないだけなのか。 さすがに今回は、津田に話をする内容を考えていきながら、1時限目の教室に向かう。津田のいる、あの教室に。 と、パタパタと走っている足音が聞こえてきた。 教室に到達する手前の廊下から、階段を上がってきた、写真部の瀬川が姿を表し、教室に滑り込んでいく。 ピンと感じた。瀬川は、あの写真、見たんだな。 なんとなく、そう感じた。 じゃ、私は、知らないふりをして、平静で授業をすることにするか。  授業が終わろうとしている時、黒板からみんなの方に振り返った。津田は、ノートに何かを書きながら、黒板を見ていた。 「えーと、津田。授業終わったから、ちょっと先生と来てくれ。すまんな。」 津田の方を見ていたのだが、その横から「え?」という声が聞こえた。 授業が終わってドアを開け、ちらっと後ろを見ると、津田が後ろから私のあとに着いてきていた。 少し歩いたところで、 「どうだ?高校生活は、有意義に過ごしてるか?」 と聞いてみた。 「あ、はい。」 だけしか返事がなかったが、これはいつものことだ。 一度、職員室に寄って授業道具を置いた後、教官室に寄った。ここなら、学生と二人で話し合うことが出来る。 「なんだか、急に大人びた感じがするなあ。成長が早いのかな。」 この一言で、津田は、少しだけ緊張がほぐれた顔つきになった。実は津田は、数学が得意なのだ。この微分積分はとくに勉強熱心に聞いてくれている。そしてテストの成績も上位にいる。 以前、数学オリンピック(実際にあるんだよ)とか、フィールズ賞(数学権威の最高ランク。ノーベル賞くらいの格式)の話とか、いろいろ話していると、どうしても微分積分が出来なければならないという話をしてからだ。 なので、この高校に来てから、私の授業は一度も休んだことがない。 見た目はおとなしく、ひ弱で、無口で、物静かで通しているようだが(そこは素のままなのだろうけど)、面白いことが見つけられなかっただけなんだろうと、私は考えている。 ものの10分もすると、津田の方から次々と話が出てくる。 「前にケーブルテレビで、ナショジオのチャンネルで数学の番組をやってましたね。フィールズ賞のことがちょっとだけ出てましたね。」 「秋山さん(日本の数学者)の映像とか見てると、面白いんですよねえ。お笑い芸人より断然面白い。」 「ホーキング博士のブラックホールの理論も、まだ途中です。あれはまだまだ難しすぎる。」 と、喋りだしたらなかなか熱く語ってくるので、ついつい時間を忘れてしまうくらいだ。 クラスの人たちと、こんな話題が合うわけがない。だから、興味が同じ私には、懐いてくれている。 「それで、津田?この夏休みは何してたんだ?セックスもやってたんだろ?」 と聞いてみると、これまた興味のあることのひとつ、セックスについても熱く語ってくる。 これがあるので、職員室やどこかの家では話しづらい。教官室のほうが、都合が良いのだ。 私と津田の『個人的』面談は、前回は夏休み前だった。 3回目の画像流出のすぐ後だった。そう、ここで言う、第4話目の頃だったな。 クラスの数人が、津田のヌードを見たらしいことを言ってきたときだった。 その時の様子を思い返すと、津田にとって、裸になったりセックスしていることは、数学の微分積分を解いたり発表することと似ているのだ。 本人にとって、それは『興味があって面白いこと』で、しかし他の人に話を持ちかけても、相手が尻込みをしてしまう、うまく返答が返ってこない、ということのようだ。 私が、なぜそういうような津田の相手が出来るのかというと、福祉の教育を受けていたから、なのかもしれない。 いわゆる軽度精神障害とも分類される、ADHDとかASDというジャンルの性格の方々の勉強を、教員資格獲得の際には必要なのだが、そういった勉強をしてきたから、かもしれない。 当然、他の教員の方々も、そういう知識は持っている。ただ、活用方法が私の場合は、プライベート問題とか対話の仕方などに重点を置かれている勉強方法だから、なのかもしれない。 この手の教育方針というのは、一概に、こうと決まった方向性があるわけでもないし、だが日本だってこの手の法律は毎年内容が改定されたりしているので、都度、新情報が出てくる分野でもある。 それを毎度更新していくのは、毎日のように会って話をして観察できる環境にある現場にいることなのでは?と、私は考えた。 普通を押し付けずに、なんでもどんなことでも話を聞いて行くことが、それに値することなのではないか、と考えた。 だから、津田のことも、ただただ話を聞いてみる。それだけ。 それだけしかしていないが、それが津田の方から寄ってきて、親しんでくれる。 本人にとっても、これが一番良いのではないか、と考えるようになってきている。 だから、今日も、この話題に触れてみた。 「あ…、うん、僕ね、蓮とセックスできたんだ。夏休みに3回くらい。すっごい嬉しかった。」 と話してきた時は、ちょっとびっくりした。 「あ、れ?あー、そうなのか。あっ、でも、大人の人ともセックスしてたって言ってたよな確か?」 「あ、シルバーウィークに、大人の人たちとセックスしてきたよ。またビデオ撮られちゃった。」 と、こんな内容のことを、いとも軽く話ししてくるのだ。こういう時に、パニックとか吃音は出てこなくて、普通にスラスラ言葉が出てくるのだ。まるで動画の一つを閲覧してみたくらいに、軽いノリで。 周りの人から見ると、こんな感覚が平常であるはずがないと考えるかもしれないのだが、こういうのが、そういったASDとかADHDの特性のひとつなのかもしれない。

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