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第26話 連休明けの当人

 レンは、結局、その日はクラスに戻ってこなかった。 俺も腐女子も、そこが気が気じゃなかった。 「ここは、先生に聞いてみるか…」 放課後、ちょっとしたタイミングで腐女子と一緒になったところで、ぼそっと言ってた。 「一応、ウチの写真部の顧問だし、先生がレンくんを連れてったんだし。ちょっと今回のことは怖くて聞けなかったけど、聞くしかないもんね…」 と、俺とはそこで別れて、部活に行くことにした。 その日は俺はさんざんな結果になった。練習だからガタガタでもいいんだけど。 俺もメンタル弱いなー。 そして次の日。この日もレンは登校してきていない。 なのに、腐女子は、妙にスッキリした顔になってる。 「あ、蓮くん、おはよ。今日は蓮くんに話があるの。」 ニコニコしながらのこのセリフ、ぜっっったい裏があるだろ~と身構えてたが、 「レンくんはね、自宅待機だってさ。」 「は?自宅待機?」 なんだか予想を裏切ったセリフ。 「蓮くんは、レンくんの新しい画像って、見た?」 「えぇ?知らねぇよ。見てない。…なあ、レンって、そんなに画像撮ってるのか?」 要するに、腐女子の話では、今週一週間は、レンは自宅待機を命じられたんだそうだ。 「ふーん。なに、体調とかでも悪いのか?」 「うーん、大丈夫そうだけどね。でも来られない事情があるようよ。」 「そうなのか。んで?レンの新しい画像ってなんなんだ?」 「ん~?なに?なにそれ?」 「さっき言ってただろ?どんなんだよ?」 「え?知らないわよ~。なに、あたしなんか言ったっけ?」 「ぅをぃ!腐女子!ごまかすな!」 ひらりと翻して席に着き、ちょうどこのタイミングでチャイムが鳴った。 ま、まぁ、レンが無事だったらいいんだけどさ。 それにしても一週間も来られないなんて、俺…、レン…、どうしようか。 とりあえず、俺は学校に来てるんだし、部活やっていくしかないけどな。うん、とりあえず、部室に来ちゃったし、ぱっと体動かして、気分転換してくか。 あぁ、レンの家に行けば、なんか判るかも…けど、レンの家はクラスの誰も知らない。先生も教えてくれない。だから俺からは何も出来ない。 じゃあ、どうする?うーん。 ピロン 「ん?」 LINEだ。誰だ?…あ、レンじゃねえか。 『いまどこ?』 だって。レンはどこなんだろ?家かな? 『じゃあ、ちょっと出てこれる?ぼくも外に行く』 だって。部活終わりにLINEしてきたから、丁度いいというか。じゃあ、そっち方面に向かっていくよ。 って、んんん?今日はホテルじゃないだろうな??やだぞそんなの。 なんだかレンの指図どおりに歩いてきたんだけど、普段通らない住宅街のすぐ横。大通りに面してるから、いつもは通り過ぎてたんだけど、コンビニの前の横道を入っていくと、広めの住宅街に入っていく。 道沿いに公園があって、もう日も更けていると街頭がところどころに点いている程度で、そんなに明るくはない。 ピロン 『自販機のそばにいるよ』 公園の少し中に入ったところに自動販売機が3基並んでいる。あれだな。近づこうとして、…誰かいるみたいだ。レンじゃない。数人いるみたいだけど。そこじゃないのかな。 遠くに他の自販機の光が見える。向こうのことなのかな。ちょっと行ってみるか。 公園の中には、他に2箇所、自販機があったけど、周りには誰もいなかった。 やっぱり最初のところにいたのかな?戻ってみると、自販機の横に座り込んでるレンがいた。 「…あ」 目だけオレを向いたレン、なんか疲れてるのかな?体だるそうにしてるみたいだった。 「あぁ、ちがうよ。そうじゃないんだ。セックスしてたから。」 「って、またかよオイw」 「だって、家にいてもやること無いんだもん。だからヤることにした。」 って言いながらズボンを下げてお尻を向けてくる。股の谷間のあたりがドロッとしていた。あ、ノーパンだった。 「なに、今度は誰だよ?」 「近所に住んでるセフレだよ。大学生の。たまに会ってくるんだ。」 「ふー…ん…、なに、学校はどうするつもりなの?」 「うーんとね、」 今日のレンは、ここからスラスラ話し始めた。 実は1時限目の数学の先生に、今日の放課後、腐女子と一緒に会って、おおまかにレンの話を聞いてきたんだ。 もっとも、プライベートのことはぜんぜん話してくれなかったけど、そこではレンの性格と対処法って言っていいのかな、対話の仕方を話してくれた。 不登校歴3年のレンに、普通にセックスまでできて付き合える人は、オレくらいだと話してくれていた。 ちなみに腐女子は、その点についてはとくに変化がなかった。妬いてくるか思ったけど、そんな素振りもない。 ただ、レンの性格だから人と話すことは苦手と捉え、話を聞くことを重要視したほうがいいという、先生のアドバイスだった。 「基本的に、『こうしたらいい』などの忠告は、本人にとって苦痛であることが多い。価値観が違うから、そこから拒絶に繋がっていく。これは私の偏見かもしれないけど、女性は自分の意見を言いがち。それがレンくんにとって有難いことだったら受け入れるかもしれないけど、大抵のことは個人の人生観の違いを比べるだけになっちゃうんだな。良かれと思って価値観を説いても、結果、拒絶に繋がって、女性不信というパターンになったと、本人は言っていたよ。」 俺らはその話をずっと聞いていた。レンの本質を、こういうふうに聞くのは初めてだったから。 「最近、やっと自分自身を分析できるようになってきて、自分なりに納得するところが出来るようになった、とも言ってるねえ。この、『納得する』ことは、とても重要だ。ここから、変えることが出来るのか出来ないのかを、本人が解るようになるんだな。変えられない性格だったら、無理に変えない。これも重要なことだ。」 レンの話は、このまま学校に行かなくなる生活になるかもしれない、ということだった。原因は、ネットに出されているレンのヌード写真。もともとレンが写真撮られるところが好きになったのは、セックスからの派生だからだ。普段の様子や笑顔の顔写真などはほとんど撮っていない。セックスの写真は、好んで撮られている。この点も、他の人と違うところだ。 「僕は引きこもってる生活に慣れてるから、べつに学校に行かなくても平気。最近はアルバイトとか働くことも考えて、親と話すことも出来てるから。」 「働くって…」 オレには、まだまだ想像してなかったことを、次々と話してくる。レンの言葉は、会って聞くたびに、新しい世界のことが展開されている。 オレは、レンの心の内を、半分も知らなかった。 もちろん、セックスの濃厚度の違いも。 「だから、これからどうするか、どうなるかは、まだ決めていないし、判らないけど、蓮とは友達だと思ってるんだ。だから会って話ししたい。いいかな?」 「お、おう…。もちろん。」 「よかった。ありがとう。」 手をぎゅっと握ってこられて、ちょっとだけ、照れた。ドキッとした。 「先生からも、なんか聞いてきたんでしょ?先生からLINE来てたから。」 なんだ、筒抜けかよw 「じゃ、帰れる?道判る?この通りを行ったらコンビニがあるから」 「おう、帰り道くらいは判るよ。」 と、レンとはここで別れた。またねと手を振った。 コンビニの手前に来たところで、いま来た道を戻ってみた。あの別れ方は、なんだろうな?なんか歩いているうちにモヤモヤしてきたんだけど。 そっと公園の横の道を静かに歩くと、聞いたことのあるセックス最中の独特の音が、自販機から聞こえてきた。 「恋人に、他の男に犯されたケツまで見せて、淫乱ガキが。」 「恋人と話ししてるところも全部撮ってたから、あとで編集して送っとくぜ。」 レンの喘ぎ声も聞こえる。すぐ横に、それを撮ってるカメラを構えてる人も見える。 「恋人に見られたら興奮するようになったんだもんな。ビッチに成長したよな。」 「見た目ギャップで、処理係とか肉便器がお似合いだよ。」 などなど、言われ放題のレンに、俺は後ろから見てて、 「すげぇ…レン、かわいい…」 すげぇ興奮した。

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