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黒猫の彼は猫舌(1) 『過負荷』より

 ツアーの最中でリハと本番を繰り返す多忙な日々を送りながら、俺たちは束の間の休憩を取っていた。  壱流(いちる)は熱そうに、昼飯の出前で頼んだラーメンをふぅふぅしている。  こいつは筋金入りの猫舌だ。  同性の俺から見てもかなりかっこいい奴なのに、舌だけでなく壱流本人も、どことなく猫っぽい。毛並みのいい、黒猫だ。  俺たちはZION(ザイオン)という、二人組の音楽ユニットをやっている。  俺がギターで、壱流がボーカル。高校時代からの付き合いだが、今は公私共に壱流とべったりだ。いろいろと事情があって俺たちは一緒に暮らしている。  しょっちゅう一緒にいるのだから、こいつが猫舌であるのは主張されずともわかりきっていた。  それなのに、熱々のラーメン。 「……っう」  蓮華を口に入れていた壱流が、突然呻いて停止した。  あーあ……火傷したなあ、これは。  俺は傍らに置いてあった水のペットボトルを取ってやり、ご丁寧にキャップまで開けて無言で痛がっている壱流に渡した。 「熱いの苦手なくせにラーメンとか食うなよ」 「食いたいって言ったのは竜司(りゅうじ)じゃないか」 「それは、だってさあ。熊本ラーメンてどんなかなって思ったんだ。それによ、俺に付き合ってラーメン食う必要ねえじゃん。炒飯でもなんでも他にあるじゃねえか」 「冷ましながら食うから問題ない」  いや、絶対伸びてるからそれ。  ラーメンは熱いうちに食うのが旨いのに、実にもったいない。  俺はほぼ完食しそうな勢いなのに、壱流と来たらのんびりのんびり食べているにも関わらず、熱がっている。  食い始める前、こいつ丼ん中に「一個だけ」とか言いながら氷入れやがったんだぜ。ぶっちゃけラーメンに失礼だよな……。 「大体よ、壱流は麺類食うの下手じゃね? もっとずぞぞぞって、豪快に行けねえの」 「ほっといてくれ。熱いんだよ」 「俺のムスコは上手に吸えるくせになあ」  何気なく言ってしまった科白に、壱流は飲んでいた水をむせた。 「口拭けよ」  今更何を動揺しているのだか。そんなの日常茶飯事だし、壱流はこんなことで照れるような奴ではない。……と、思う。  だけど……あれだな。  最近はちょっとご無沙汰かも。毎日忙しいし、ヤってる時間が取れないっつーか。壱流は時間さえあればボイトレしてるし、俺だってギターいじくってる。  遠征先で爛れた愛欲に溺れるのもまあいいけど、どういうわけかホテルの部屋は別々に取ってあるし、……ああ、あれか、無駄な体力使うなっつー、いらん配慮か?  だけど、そろそろ。いろいろと。  まだまだ食い終わりそうにない壱流を尻目に、俺はラーメンのスープまで飲み干して、ごとんとそれをテーブルに置いた。

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