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黒猫の彼は猫舌(2)

「なあ壱流、今夜あたりどうよ」 「何ひとりでサカってんだよ」 「素直じゃねーなあ。そろそろムラっと来る頃じゃねえか? 俺はおまえのことを慮って言ってんの」  半分嘘。  自分の事情も、勿論ある。  だけどこいつ、俺にされんの嫌いじゃないし。むしろ、大好きなはずだし。  俺のあからさまな夜のお誘いに、壱流は少し遠くを見つめるようにしてから呟いた。 「1ラウンドだけならな」  心にもないことを。始めてしまえば1ラウンドで済むなんてことは、あまりないんだよな。俺がしつけーのか? いや……でもなんか燃えるんだよな壱流相手だと。男なのに。  俺も壱流も、元々はへテロだったのに、なんでかこんな関係になってしまって今がある。俺は壱流以外の野郎を抱くなんて考えたこともないし、壱流も俺だけだ(多分な)。可愛い顔を見せるのは、俺に対してだけでいいのだ。  考えていたら、なんだか股間の辺りが窮屈になってきた。……まずい。  横にいる俺の窮屈になっている辺りに、壱流の視線がふと落ちた。 「今まさにここで勃てんな。何想像してんだ竜司」 「――あ、いや。そりゃ、なあ。まあいろいろと」  壱流はしらっとした目で俺を見ている。  ……なんだよその冷たい視線は。  しかしその目はすぐに逸らされ、まだ残っているラーメンに移される。少し止まっていた箸が再び動き出し、無言でかなり冷めてきたであろうそれを食べている。しっかしいい加減それちゃっちゃと食っちまえよな。まあ、焦って食ってまた火傷されてもことだけど。大切なボーカルだしなあ。 「壱流、口あーんてしてみ」 「え? なんで」 「いいから、開けてみ。火傷したんだろ。見せてみろよ」  壱流はほんのり眉を寄せたが、赤い舌をちょっと出して俺に向けて見せた。あ、なんか可愛いな……この表情。  ぺろ、と出された舌を舐めてみた。ラーメンの味がした。予想外のことをされてびっくりしたらしい壱流は、俺に顔を向けたまま何秒か固まっていたが、やがてちょっと照れたように破顔した。 「ソレ……今、抜いてやろうか?」  収まりのつかない部分をちょんと指で突かれたので、思わず腰が引く。  ええ? 今? 今……ですか? そりゃ嬉しいけど、でもな。 「あーと……いや、夜に取っとこうかなあ……なんて。ちいとばかりほっときゃ収まると思うし、それにまっ昼間だしさ」  何故だかうっかり遠慮の言葉など吐いてしまった俺に、壱流は少し首をかしげて「そおか」と納得してしまった。ああ……もったいなかったかも。かなーり元気に張り詰めてるのに。  ――ま、いいか。  これからまたリハがあるし、下手な体力使っても仕方ねえし。ここはひとつ夜に弾けることにして、今は我慢しよう。  すっかり麺の伸びきったそれを壱流が食べ終わるのを見ながら、俺は残り少ない休憩時間を何をするでもなくのんびりまったり消化した。そうしているうちに眠くなってきて、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。  寝ている間に壱流が俺の頭を撫でたような気がしたけど、よくはわからなかった。

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