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人形の恋(1) 単発もの

 僕がご主人のところに嫁いできたのは今年の初め。厳重に丁寧に梱包されて、ご主人のもとへやってきた。  シリコン製の皮膚と合成繊維の髪。一般的にラブドールと呼ばれる僕達は、通常女の子の形を取ることの方が多い。  ご主人は僕と同じ男性型の人間だけれども、女性型ではなく僕を選んでくれた。気に入ったのが見つからなかったようで、顔と体の一部はオーダーメイドで作られた。だから、相場より少し値段は張るらしい。  僕達ドールにとって、嫁ぐ先が決まるというのはとても幸福なことだ。ご主人は僕を選んでくれた。それだけで僕は無条件にご主人を愛している。  ご主人は今仕事に出掛けていて、部屋にはいない。その間僕はテレビがよく見える位置に置かれたソファに、ラブドールではない小さな鑑賞用のドールと共に座らされている。  僕が寂しいと思って、置いてくれたのだろう。僕に比べたら猫ほどのサイズしかないその子は、ダリアという名前が与えられている。ご主人の好きな花だ。  僕とは違って目の開閉が可能なゴシックロリータ調のダリアは、膝の上に大人しく鎮座していたが、何故かたまに話しかけてくる。 「ねえあんた、あたしの髪が乱れてないか見てくれない」 「ああ少し、からまってるけど」 「じゃあ直してよ」  ダリアは到底無理な注文を僕に出したが、勿論そんなことは出来ない。僕達はドールなのだ。自由気ままに動き出したら、怪奇現象だと言われて里帰りさせられるか、廃棄処分がオチだろう。 「ご主人が気づいたら、直してもらえるよ。きっと」 「気づいてもらえるかなあ。あの人あんたばっかに構ってるんだもん。大体なんであたしを嫁がせたんだか、わかんないわ」 「ダリアは、変わってる」  ご主人をそんな風に言うなんて、僕には理解出来なかった。 「そう? ドールだからってご主人至上主義なんてね、古臭いのよ。あんただって、少しは自己主張したらいいんだ」 「僕にはご主人がすべてだから」 「でも知ってる? あんたの名前は、あの人が好きだった男の名前なのよ。あんたはね、身替わり」 「そう」  ダリアがどうしてそんなことを言うのか、僕にはよくわからなかった。

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