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線香花火(2)

 尚生はいつも、物静かだ。  声を荒げることがない。もうひとりいる一番下の弟の尚志(ひさし)と比べると、雲泥の差だ、と尚弥はなんとなく思った。兄弟でも、性格は違う。 「なおちゃん……付き合ってる人いる?」  なんとなく口にした科白に、尚生は少しびっくりしたように尚弥を見て、すぐに顔を逸らした。 「俺は……見合いでもしないと、結婚は無理かもな」 「なんで」 「そういうのが、苦手だから」 「誰かと付き合ったこと、ないの?」 「――おまえこそ、急にそんなこと聞くなんて珍しい。多分、悩み事だろう?」  少し笑んで、尚生は話の矛先を変えた。 「うーん……そうだね……悩んでるんだろうね、僕は」 「恋愛関係は、俺よりも尚志に相談した方がいいんじゃないか」 「ご冗談を」  尚弥は苦笑いして、新しい花火に火を点けた。弟にそんな相談を持ちかけるのは、尚弥にとっては不本意極まりないことだった。  それに……誰かに相談したいわけでも、なかった。  ただなんとなく、口をついて出てしまっただけの話。 「好きになった人が、僕を駄目……っていうか、ほんと、普通の性癖の男の人だった、ってだけのことだからさ。女じゃないなら、論外って」 「――そう」  尚弥がバイセクシャルだということは、尚生も知っていた。かと言って自分は男どころか女ともまともに付き合ったことのない人間で、アドバイスが出来るとも思えず、また少しの間沈黙が落ちた。  花火の音が、ぱちぱちと響く。かすかに聞こえる虫の声と、遠くでいまだ鳴り響く、打ち上げ花火の音。 「聞いてくれてありがと」 「……いや……別に……何の役にも立ったとは思えない」  ぽつんと礼を言った尚弥に、何故礼を言われたのかわからなかった尚生は戸惑った声で返す。 「ううん……少しだけ、気分転換になった」 「聞くだけでいいなら、俺はいつでも」 「――なおちゃんは、優しいね」  照れたのか、尚生はそのことに対してコメントを返さず、立ち上がると尚弥の頭をぽんと軽く触った。 「気が向いたらスイカ、食べろよ。俺は戻る」  それだけ言って、また家の中に戻ってゆく。  風が少し出てきた。  尚弥も立ち上がり、花火とバケツを片付けることにした。

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