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リザードテイル

 空の色をした小瓶の中に入った少女を拾った。僕の手のひらに乗るほどの、小さな瓶。  硝子で出来ているように見えるそれは、不自然なほどにキラキラと輝いていた。もしかしたら硝子とはまた違う物質なのかもしれない。割ってみたい衝動に駆られたが、中にいる彼女を傷つける可能性を考え、思いとどまった。 「ねえ、君は誰?」  小瓶の中に話しかける。僕の声は中でかんかんと反響し、彼女は軽く耳を塞ぐ。 「わたしは《星》。空から落ちてきた」 「空から、来たの?」 「あなたは誰?」  逆に質問をされて、僕は応える側に回る。 「僕は《闇》。すべてを飲み込む者」 「ああ……だから」 《星》は合点がいったように小さく頷く。 「わたしは、  あなたに、  飲み込まれたのね」 《星》は目を瞑り、僕を視界から遠ざけた。 「目を開けて?」 「目を瞑っていても同じこと。あなたは闇」 「僕が、君の目を見たいから」 《星》の瞳は瓶の中でこの世のものとも思えぬ輝きを放ち、僕を魅了する。今まで出会ったことのない、美しい宝石だった。 「ねえ、《星》。星は夜空で輝くものなんだ。僕の頭上で輝いてくれないか」 「わたしは自ら輝きを放つことはしない。恒星の光に照らされて初めて、そうなることが出来るだけ。けれどあなたは闇」  そうだ。  僕は闇だ。  けれど闇がなければ輝きも際立ったりはしない。  ──僕は、闇だ。  そこで目が覚めた。  なんという脈絡のない夢を見たのだろう。僕はベッドの上で辺りを見回し、そこがいつもの部屋であることを確認する。  ふと窓の外を見る。欠けた月が夜空にぼんやりと佇んでいた。  手元に視線を移す。  僕の手のひらは割れた小瓶を握り締め、血にまみれていた。 「──あ」  空の色をしたそれは、夢に出てきた小瓶だった。手のひらに突き刺さった硝子の破片は、ざっくりと僕の皮膚を切り裂いている。  意識したらだんだん痛みが襲ってきた。破片をどうにかしないといけないし、手当てもしなければベッドが真っ赤に染まってしまう。そこから這い出し、立ち上がる。  ごとん  鈍い音がした。  少女の体が、  僕のベッドからずり落ちていた。  夢に見た《星》の瞳は虚ろで、ただ闇を映している。 「ああ……こっちが夢なのか」  そう呟いて、もう一度血まみれの手のひらに視線を移す。  そこに傷はなく、あるのは切り離され、永遠に肉体から別離した蜥蜴の尾だけだった。  それは身動きもせずにひんやりと冷え、ただ作り物のように、僕の手のひらの中に存在していた。

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