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言の葉の国 診断メーカーより
お題
硯羽未は月に言葉を宿す人。ランタンを使用or所持。瞳は茜色。あなたに宿った言葉は「淡雪」で足首にその言葉を模した痣がある。ファンタジー小説が好き。相棒に鷹がいる。仲が良いのは言葉職人。
#shindanmaker #言の葉の国
https://shindanmaker.com/970956
名前は「月」だから「ユエ」に変更。
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冷たくてふわりとしたものが頬に落ちた。ユエの足首には「淡雪」の呪いがかけられていて、彼の行く先々はこんな天気に見舞われる。
ユエは茜色の瞳を持つ美しい男だったが、「茜色」というのが本当はどういう色であったのか、呪いに翻弄されてすっかり忘れてしまっていた。
これでは月に、言葉を宿すことが出来ない。月は雪雲に隠れ、ぼんやりとした光はほとんど地上に届かない。ユエは月に言葉を宿す力を持っていて、それはとても貴重な能力ではあったのだが、呪いが解けない限りはどうすることも叶わなかった。
月明かりの代わりに、ほの明るいランタンを手にぶら下げてユエは夜の町をひとり歩く。ランタンの灯りは茜色にも似ていたが、そんなことさえも今の彼には思い至らなかった。
長いこと、雪降る以外の空を見ていない。このままでは心が凍えてしまいそうだ。夜はまだ始まったばかりだが、雪はずっと降り続いている。ユエが歩くと雪が降るので、人びとは家にこもり出てこない。
寂しい、夜だ。人恋しい。
「どうしたら……良いのだろうなあ」
ため息をついて、ふわふわと宙に舞う雪を眺めていたら、ふいに疾風が耳を掠めた。
大きな鷹がユエの肩に舞い降りる。しかしその大きさとは裏腹にたいして重量もない鷹は、人の言葉を器用に操った。
「ユエ。伝言を伝えに来た」
「誰から?」
「言葉職人」
「へえ、なんて」
「呪いを解きたければ付き合えと」
「何にだよ」
「さあ、オレは知らん。だが呪いが解けるなら儲けものではないか。伝えたぞ。ではな」
「もう行くのか」
鷹は伝えるだけ伝えると、淡雪の舞う空に戻っていった。たまにこうして言葉職人からの求愛を、意味もわからずにユエに届ける。意味を知ったら鷹はどんな顔をするだろう。想像したらなんだか面白くなってきて、ユエはにやりと笑みを浮かべた。
「儲けものねえ……そもそも誰が呪いをかけたのやら」
立ち止まり俯く。闇の中にあっても雪明かりのようにぼんやりと輝く呪いが目に入る。
「呪いを解いてくれる王子様」
月との繋がりが希薄なユエに、力はほとんど残されていない。命の供給源を断たれているようなものだ。
「──あるいは、呪いをかけた魔法使い」
けれどこんな呪いをかけてまでユエを欲するのであれば、根比べするのもよし、まんまと狙いに乗るもまた楽し、という両極の思いがある。言葉職人を嫌いなわけではない。むしろ仲は良かったはずなのだ。それがいつしか、呪いをかける側とかけられる側に別れた。
「こんなことしなきゃ、愛してやったものを」
淡雪の降りしきる夜の闇でひとり、誰にも届かない声でユエは呟いた。
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