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 あんな事件があったにも関わらず、翌朝以降の佑哉は、至っていつも通りだった。  いつも通り、可愛いだの離れたくないだの言いながらも、それ以上は何もしないし……好きだとかなんとか言っていた話も、しない。  本当にいつも通り、寂しがりながら校舎へ。  僕は毎日委員会の用事で忙しいし、佑哉は週に2~3回は撮影の仕事で、それ以外は友達と遊んでいる。  夜はのんびり話すこともあるけど、でも、別に。  よく懐いた後輩、としか。  お風呂を終えて、21:00。  部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、後ろから誰かに声をかけられた。 「広夢」  振り返ると、同じクラスの飯田(いいだ)だった。  緑化委員長。  先日の草むしりに僕を巻き込んだ張本人である。  2年連続同じクラスで、委員会の役員会議でもしょっちゅう顔を合わせるので、気心知れた仲だ。 「なんか大丈夫? 疲れてない?」 「いや……あの草むしりの日以来どうにも体調が優れない」  恨み言のつもりだったけど、飯田はカラカラと笑い飛ばした。 「えーあれだけで? もっと鍛えた方がいいな。また誘うよ」 「夏は勘弁して」  本当は草むしりのせいではなく、寝不足による慢性疲労だけど、断るためにも言わないでおく。  お大事に~とのんきに言って、飯田は自室に帰っていった。  眠りが浅かったり、途中で何度も目が覚めたりする。  考えたくなくても佑哉のことが浮かんできてしまって、もやもやしたまま、まもなく1週間。  そろそろちゃんと寝たいと思う。  部屋に戻ると、きょうは佑哉が遅いのを思い出した。  門限を過ぎる場合はあらかじめ届出が必要で、登校前に書類を書いていたので、間違いない。  確か理由は、撮影場所が遠いため。  帰宅予定は23:00くらい、と。  僕はそわそわしながら、ズボンをずり下げた。  健康な男がするであろうことも、寮生活ではなかなか難しく、みんなひっそりどこかで抜いている……と思われる。  僕はいつもトイレだけど、佑哉が居ない日は、こうして部屋でしたりもする。  スマホで、無料の画像サイトを開く。  風紀委員だけど、プライベートまで全てを禁じているわけじゃない。  R18を守らないのは普通の生徒と一緒だ。  巨乳の乳首画像を集めたページを開く。  男がなめていたり、おもちゃを当てられていたり、ローションでぬるぬるになっていたり。  ぽつっと大きくなった突起をこねる妄想で、僕のものはすぐに大きくなった。 「ん……」  そろっと触ると、既に先走りが出ている。  軽く上下してみると、くちゅくちゅと音がした。 「……っ、」  声が出ないよう、呼吸も荒くならないよう、息を詰めてこする。  左手はより強い刺激のある画像を求めてスクロールしていて、好みの女の人のところで手を止めた。  乳首をつままれて、眉間にしわを寄せて苦しそうにしている。  僕は、気持ちよさそうにしてる顔よりも、こんな風にもうイキそうだと限界を告げるような表情が好きで……僕も乳首をつまんでみた。 「……ぁ」  想像以上に気持ちいい。  目をつぶると、なぜか佑哉のいたずらっぽい笑みが浮かんだ。  そして、乳首とペニスをいじくられる妄想。  ダメだと思うのに、手が止まらない。 「はあっ、……っ、ん……」  息も荒くなって、隣や廊下に聞こえないかと思うのに、興奮しすぎて制御できない。  妄想の中の佑哉は、スピードをつけてしごきながら、僕の硬くなった乳首を、舌先でチロチロとなめた。 「ぁ……、も、……んっ、ゆぅ、ゃ」  気持ちいい。  乱暴にしごくうち、頭が真っ白になって、ぎゅーっと目をつぶりながらイッた。  体を丸めて、ビクビクと軽く痙攣(けいれん)しながら、けっこうな量を吐き出す。 「……、はぁ、はぁ……」  頭がクールダウンしてくると、ひどい自己嫌悪に襲われた。  ティッシュで雑に拭き、小さなゴミ袋に捨てて、ついでに他のゴミも入れて縛る。  大して見なかったエロ画像サイトを閉じて履歴を消し、袋を共用ゴミ箱へ捨てに行くことにした――部屋に置いておいては、ひとりでしたことがバレるからだ。  すぐそばの階段を降りて、ロビーへ。  誰もいなかったので、さっさと捨てた。 「先輩」 「う!?」  弾かれたように振り向くと、佑哉がいた。 「ゴミ捨てですか?」 「うん。あした収集日だからね」  バレるわけはないけど、緊張と罪悪感がすごい。  下手にごまかして挙動不審になったらつっこまれると思ったので、一切目をそらさず話す。 「仕事、早めに終わってよかったね」 「はい。スタッフさんが気を遣ってくれて、家が遠い人を先に撮影終わらせてくれたんです」  ふふっと笑って階段を上がる佑哉に、ちょこちょことついていく。  部屋に入った途端、毎日恒例、会いたかっただの寂しかっただの……にはならず、佑哉は小首をかしげて言った。 「なんか、先輩。大丈夫ですか?」 「え、何が?」 「気のせいかな、なんかいつもと違うっていうか。何かありました?」 「いや……? 特には。強いて言えば、体調があんまりよくないかな。最近うまく眠れてなくて」  佑哉は俺の目をじーっと見たあと、1歩こちらに近づいた。 「それって、俺のせいだったりします? 好きって言っちゃったから」 「え? いや……」  違うと即答できなかった時点で、イエスと同じだ。  佑哉は荷物をぽいっと置き、僕の腕を引っ張って、強引にベッドに座らせた。  そして、むぎゅっと抱きしめながら言う。 「……部屋変えてもいいですよ。襲われるかもとか思って眠れないんじゃないですか?」 「へ? いや、そういうことじゃないけど」  抱きしめながら言うセリフじゃないだろう。  が、僕もすっとんきょうな声を出してしまったし、なんかもう、色々グダグダだ。 「違くて……なんか分かんないんだけど、佑哉が、その、何度も夢に出るから……」  言いづらくてもごもごすると、佑哉は体を離し、神妙な面持ちで僕の顔をしばし眺めたあと、はーっと長くため息を吐いた。 「そうやって先輩はね、地味に煽るんです。素で可愛いこと言うのやめた方がいいですよ」 「本当のことだし」  あんな、あられもない想像までしてしまって……今夜はもう眠れないのではないかと、心配になってくる。  佑哉は僕の肩を軽く掴み、目を合わせて尋ねた。 「先輩って、1回も校則違反したことないんですか?」 「ん? ないよ」  質問の意図が分からないまま言い切ると、佑哉はふっと笑って言った。 「じゃあ先輩。初めての校則違反しません?」 「え……? 何? やだよ、進んでルールを破るなんて」 「変なルールがいけないんです」  佑哉は小首をかしげた。 「好きなんです、本当に。だから、付き合ってください」  僕は絶句してしまった。

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