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ベッドの縁に腰掛ける佑哉の足元に、ぺたんと座る。
僕はベルトを外しながら、自分はいけないことをしているなと、客観的に思った。
廊下からは絶えず、誰かが話す声がする。
通り過ぎる人。
スマホの着信音。
それなのに僕は、ルームメイトの後輩と、性行為に及んでいる。
上目遣いで佑哉の表情を見ながら、付け根から先端に向かって舌を這わせた。
「……っ、絵面が刺激的すぎますねこれ」
「しげき?」
「いや、学校一ド真面目かも知れない風紀委員長が、可愛い顔してフェラしてるって……やばいですよ」
そんな言い方をされると、恥ずかしい。
コメントの代わりに強めに吸うと、佑哉は息を詰めた。
よかった。気持ちよさそう。
僕は佑哉に目を合わせ、アイスキャンディーを食べるみたいにぺろぺろとなめながら、ぽつりと言った。
「あのね、佑哉。僕は佑哉のことが好きだよ」
「え……っ」
「いっぱい否定してごめんね。ルールを破るのが怖かった」
驚くのは当たり前だろう。
切り出し方が、あまりに唐突すぎた。
根元の方に口づけてみたけれど、佑哉は何も言わない――というより、絶句している。
「本当は何も気にせずに好きな人といられたらいいけど、学校に通っている以上、ルールも秩序もある。いまも、外には人がいっぱいいるし」
ちゅぱ、ちゅぱ、と音を立ててみると、佑哉は僕の頭をそっとなでた。
「でもね。さっきの佑哉の案を採用して、この部屋の中だけは、治外法権でもいいのかなって」
「……先輩はそれでいいんですか?」
「集団生活で風紀を乱さなければ」
率先して校則違反をすることになる。
それも、長年物議を醸している項目で。
隠していればいいという問題ではないことは、重々承知だけど。
「こんなに好きで、こんなことをしたいんだからしょうがないと思う」
僕は先端をくわえこみ、手で大きく上下にしごいた。
「ちょ、せんぱい……っ」
慌てる佑哉の静止は聞かず、このままイッてもらうつもりでしごく。
「っ、イキそうなんで口離してください」
無視。僕は佑哉の精液を飲みたい。
本当はそんなことを考えるくらい好きだったのに、あれこれ言い訳をして、恥ずかしがってばかりいて、バカだった。
頭が堅くて何が悪いんだとさえ思っていたけれど、ルールに意固地になる僕は、ものの本質を全然分かっていなかったのだと思う。
「っ、……ッ!」
口の中に、あたたかくてほんの少し苦いものが、ドクドクと注ぎ込まれた。
裸のまま、下段の僕のベッドにふたりで丸まって、余韻を味わった。
体をぴったりくっつけてぬくもりを感じていると、そのまま眠ってしまいそうになる。
「好きって言ってくれて、しかも付き合えるなんて。夢みたいです」
「それ、佑哉と付き合えた女の子のセリフだと思うけど」
「……? 先輩にしか興味ないですよ」
佑哉は、キョトンとした顔で2度3度まばたきすると、またふにゃっと笑って、僕の額やらつむじやらに口づけてきた。
「生徒会、頑張ってくれるといいですね。校則変えるの」
「うーん。無理だと思うし、別に変えなくてもいいかな」
「えっ、何でですか?」
「どのみち部屋の外ではくっつくつもりはないし、交際OKになっちゃったら、女子が寄ってきそう」
恥ずかしいことを言っている自覚はある。
なんだかまるで、独占欲みたいな。
しかしそれを聞いた佑哉は、さらに恥ずかしいことを言った。
「ほんと、秘密の愛の巣って感じですね」
「……うん」
消え入るような声で返事をして、でもなでて欲しくて、顔を鎖骨の下あたりに擦りつけた。
佑哉は何も言わなくても分かってくれて、いいこいいことしてくれる。
そして、のんびりした声で、つぶやくように語り出した。
「学校が禁止する理由、風紀の乱れって何なのかって考えると、勉強がおろそかになるとか、見た目がチャラく見えるとか、あとはまあ……高校生がセックスしちゃダメよってことだと思うんですよね。って考えると、学校が求めてくることを全部クリアすれば、文句を言われる筋合いはないですよ」
確かに、佑哉の言う通りかも知れない。
僕も佑哉も、付き合ったからといって勉強の手を抜くつもりはないし、みんなに見えるところで不適切にくっつくつもりもないし、……セックスしても、別に子供ができるわけでもない。
ここまで考えて、僕は少し不思議に思った。
なぜこの後輩はこんなにも、僕にこだわるんだろう。
「ねえ、なんで僕なの?」
「えっ? 覚えてないんですか? 初めて会った日のこと」
「……? 部屋割りのとき?」
僕が尋ねると、佑哉は眉根を寄せたまま、じわじわと笑った。
「うわ、マジで覚えてないんだ。じゃあほんと、俺の片想いだったんですね」
「え? 何? 覚えてない」
焦って抱きつくと、佑哉はクスクス笑った。
「新入生オリエンテーションの日、先輩も委員長枠で出てたじゃないですか。会が終わって退場しようとしたら、2年生のちょっとヤンチャっぽい人たちに変な絡まれ方して……友達になろうよウェーイみたいな」
「あ、たしなめた」
「そう。後ろからきた先輩が、図体でかい5人を見上げたまま無表情で言ったんです。『そんな風にいきなり取り囲む人たちと楽しく遊べるわけないでしょ』って。ド正論すぎて、俺ちょっと笑っちゃって」
確か、隣のクラスの野球部だ。
新入生にモデルがいると聞いて、人気にあやかりたいみたいなことを話していた――もっとも、同じようなことを考える輩は、男女問わず掃いて捨てるほどいたのだけど。
「俺、忘れられなかったんです。小柄なのに、威風堂々ってああいう感じかな。だから、同じ部屋って聞かされたとき、めちゃくちゃうれしかったんですよ。それでいざ一緒に暮らしてみたら、気難しい人かと思いきや、超可愛いし」
ギャップギャップ、とつぶやいて、佑哉は僕に頬ずりした。
「かっこよくて可愛い先輩が大好き。ルールに厳格なのも好きだし、全校生徒相手に朗々と語る先輩はかっこいいし、でも、キスしたら真っ赤になる。可愛い」
「僕は……」
背中に回した腕に、ぎゅーっと力を込めた。
「夜、佑哉のこと検索して、写真を見て……別世界の人だなって、寂しくなるときがある。毎日暮らしてて、ついさっきまでしゃべってて、それでも、寝る前に検索しちゃうんだ」
佑哉は僕を凝視したあと、「んん?」と不審な声をあげた。
「何それ。じゃあきょうから一緒に寝ましょうよ」
「いやっ、それは狭いし……」
と言いかけて、撤回した。
「狭くてもよければ、くっついて寝たい、な」
「キスしながら眠れるなんて、いいシステムです」
ちゅっと軽くキスされて、照れてしまった。
お互い素っ裸のくせに。
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