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 佑哉はコンドームをはめると、ふたつ目のローションの袋を開けた。 「さっきのやつ、本当にエッチな気持ちになるやつだったのかも知れませんね。これも効果あるのかな」 『ぬるぬる持続』と書いてあるだけあり、佑哉の手に出されたそれは、かなりねっとりと糸を引いている。  佑哉がこんな風にのんきなことを言っているのは、多分やせ我慢だ。  そんな後輩が可愛くて、早く入ってきて欲しくて……ねだろうとしたけど、気恥ずかしくて無理だった。  情けなく、力の入らない手で佑哉の顔に手を伸ばす。 「えっと、キス……」  蚊の鳴くような声で言ったら、佑哉はふにゃっと溶けそうに笑って言った。 「繋がってからキスしたいです。それでもいいですか?」 「うん」  佑哉は確かめるように中を探り、たっぷりとローションを塗り込めた。  興奮でどうにかなりそう。 「挿れますよ」 「あ、……っ、ぁ」  想像以上に大きくて、圧迫感があって、苦しい。  だけど僕は、それがうれしかった。  苦しいほど愛されているような気がして、なぜだか泣きたくなった。 「ゆうや、……っ、」 「痛い? 大丈夫?」 「全部埋めて」  奥に到達し、佑哉がふーっと息を吐く。 「これで全部です」 「うん。繋がってる。うれしい」  佑哉は眉根を寄せて笑い、僕がせがむ前にキスをしてくれた。  幸福感がすごい。  いつだって、佑哉とキスをするのはドキドキするけれど、こんな風に満たされた気持ちになるのは初めてだと思う。  ゆるゆると、佑哉が動き出した。 「ん、はぁっ、……は、」 「やば……、めちゃくちゃ気持ちいい」 「ふ、ぁ……っ、あ……佑哉、ゆうや、きもちぃ、んっ」 「そんな可愛く呼ぶの……頭おかしくなりそ」  どうやら、ローションの効能は本当らしい。  滑り良くズボズボと出し挿れされて、恥ずかしい声が漏れてしまう。 「あんっ、んぅ……」 「先輩。我慢しないでいいですよ。俺しか聞いてないですから」 「……はぁ、あぁ、あッ、……あぅ、佑哉……きもちい、お尻きもちい、あぁっ」  自分でも信じられないような卑猥な言葉が、次々とこぼれ出てくる。 「中、ゴリゴリって。きもち……ぃ、奥いっぱい、ぁ、あ……ッ」 「トロ顔。気持ちよさそう」 「ん、んっ、奥突いて、ちんちんも触って」 「可愛い。エッチなこと、好きになっちゃいました?」 「すき、きもちぃのすき、あっ、んぁ……ッ」  佑哉は期待通りに触ってくれて、太いもので何度も中を擦られると、思わず身悶えた。  佑哉の呼吸も荒くなって、肌も汗ばんでいる。  何度も名前を呼ぶと、佑哉は息を詰め気味に言った。 「ぅ……、もうちょっとしてたいんですけど、……限界かも」 「イッて、佑哉」 「……ぁ、……も、出……っ、……ッ」  パンパンと何度か肌を打ち付けて、僕の体を全力で抱きしめて、果てた。  裸で隣に寝そべる佑哉は、スマホを見ながら言った。 「駅から寮までダッシュする体力があれば、21:19発で門限に間に合います」 「……むり」 「まあ、そうですよね。ごめんなさい、あはは」  ぐったりする僕の頭を、佑哉は苦笑いでなでる。  約5時間、ずっとセックスしていた。  こんなところ、滅多に来られないから。  佑哉のスキャンダルのリスクを考えたら、もう二度と来ないかも知れないし。  そう思ったら止まらなくて……本当に、フリータイムにしていてよかった。  よっこらせと言いながら寝返りを打ち、佑哉の懐に入ってスマホ画面を見る。  勝手に『1本前』のボタンをタップすると、佑哉はクスクスと笑った。 「なんかこういう、遠慮のない感じ? 恋人っぽくていいですね」 「……確かに、他人のスマホを触るとか、佑哉以外に絶対やらない」 「こうやって慣れたふたりになっていくのかな」  佑哉は目を伏せ、ふふっと笑う。  時刻は20:00過ぎ。  お腹がすいたとかよりも、あと1時間で帰らなければならないことに、名残惜しさを感じてしまう。  危うく、0時に魔法が解けるシンデレラに自分を重ねそうになった――どう考えても気持ち悪いのでやめたけど。  変な考えをやめるべく、僕は話題を変えた。 「この間、バイト先の人に、葛城佑哉と知り合いかって聞かれたんだ」 「なんて答えたんですか?」 「触れちゃダメな話題ですって答えた」  佑哉はちょっと目線を外して考えたあと、僕の頭をなでながら尋ねた。 「俺、迷惑かけてます?」 「えっ? いや、全然」 「ならいいんですけど。それで先輩が嫌な思いしてるなら仕事やめようかな、とか、一瞬考えちゃいました」  驚いて顔を見ようとしたら、強い力で抱きしめられた。 「俺、負担になってないですか?」 「なってない。いや、なってるわけないでしょ」 「まあ、そんなこと言ったら、うちの学校の人全員に迷惑かけてることになっちゃうんで、あんま考えないことにしてるんですけどね。メンタル潰れるから。でも、先輩は特別なんで」 「……みんな、佑哉のこと利用してるよ。知り合いだとか言って自慢したり。そういうの、何回も見た」 「それは慣れっこだからいいです」  ふふんと笑う佑哉に、僕は、この話題の真意を伝えることにした。 「えっと。話を戻すと……そのバイトの人に聞かれて、僕、ちょっと自信なくなっちゃって。有名人で、華やかな仕事してる佑哉は本当は遠い存在なんだと思ったら、ちょっと寂しくなったり。とか」  ぼそぼそと告げると、佑哉は一瞬黙ったあと、盛大に笑った。 「あはは、何それ。毎日一緒の布団で寝てるのに」 「自分でもバカだなって思ったよ」  佑哉は慈しむように目を細め、スマホの画面をすいすいと操作した 「秘密の恋愛って、特別らしいですよ。事務所の先輩が言ってました」  見せてきた画面は、俳優のツイッター。  つい先日一般人と結婚したと報じられていたけれど、どうやら、このツイートが大炎上しているらしい。 [秘密の中で育む愛情は、特別なものだなと思います。もちろん、ファンの方への後ろめたさもありましたが、大切な彼女を守り抜きたいと思いました]  そりゃ、ファンは怒るだろうと思う。  結婚に舞い上がって書いてしまったのだろうか。 「俺はいま、特別な気分ですよ。誰も知らない先輩の趣味を知れて、エッチな声もいっぱい聞いて、秘密だらけ。最高」 「……じゃあ僕も、秘密を満喫するよ。佑哉は僕にはとびきり優しい」 「そう。先輩が一番大事なので」  佑哉は、僕と一緒に花園ビリヤードに通うことを、密かな趣味にしたいらしい。

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