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5 危ないこと

 夏休み明け1回目の委員会。  冒頭で、生徒会長が深々と頭を下げた。 「本当に申し訳ないです」  案の定、交際禁止の校則は覆らなかったらしい。  敗因は、この校則を理由に青花に決める親が多く、PTAから猛反対されたとのこと。  まあ実際、身持ちの堅いお嬢さんっぽい子も多いし、親からしてみれば、変な虫がつかなくて安心だと思って入れた学校が突然恋愛OKになってしまったら、たまったもんじゃないだろう。 「我が校にまともな人権はないようです」  がっくりと肩を落とす生徒会長を、僕は冷めた目で見ていた。  こんなことを言っているけれど、この校則にさしたる効力がないことくらい、彼も分かっているはずだ。  校則があるから付き合えないなんて本当に信じ込んでいたのは、多分、僕だけだ。  普通の生徒は、こんな校則は無視して、好きな人ができたら告白するし、休日にはデートするのだろう。  それをあえて撤廃したいなんて、結局、会長が何か手柄が欲しかったんじゃないかと思ってしまう。  まあ、僕も大嘘をついて片棒を担いだわけだけど、ひとつ言い訳をさせてもらえるなら、守れないルールは要らないと思っただけだ。  人権がどうとかは、言い過ぎ。  思ってもいないだろう。 「佐久間くん、せっかく良い意見をもらったのにごめんなさい」 「いえ。あれはただの個人の感想なので、意見でもなんでもないですよ。正直、この校則が覆る可能性なんて1回も考えたことないです。無駄なことで闘うのはやめて、本当に変えるべきところに注力してください」  事実をきっぱり告げたら、会長は面食らった顔をしていた――もちろん、広報に書かれた私怨は少し混じっている。  少し離れた席に座る飯田は、クツクツと声を殺して笑っていた。 「オレ、広夢のああいうとこ、大好き」 「何が?」 「無表情のド正論一発で相手を黙らす感じ」  何を思い出しているやら。  階段を降りながらニヤニヤする飯田を、僕は薄目で見る。 「別に黙らせたかったわけじゃないよ。ただ、生徒の人気取りを優先事項にしないでくれと思っただけ」 「実際人気だろ?」 「人気は統制に使って欲しいよ」 「あはは。そういう辛辣なとこも大好き。頼りにしてるよ、広夢ちゃん」  飯田が僕の背中をポンと叩いた時。 「せーんぱいっ」  後ろから聞き慣れた声がして、振り向くと、佑哉がニコニコしていた。 「飯田先輩もこんにちは」 「ああ、葛城くん。この間YouTube見たよ。廃線のトロッコ、楽しそうだった」 「えっ? うわ、わざわざ見てくれたんですか? ありがとうございます。学校の人から直接感想とかもらうことあんまないから、うれしいです」 「広夢が嬉々として見せてくれたから」  やめろ、語弊があるぞ。  心の中で抗議するものの、それを口に出す勇気はなかった。  気まずく目をそらすと、佑哉は弾んだ声で言った。 「え、宣伝してくれたんですか? うれしい。俺、先輩のそういうとこ大好きなんですよね」 「……そりゃどうも。きょうは撮影だっけ?」 「いや、ないんで、部屋に戻ったら勉強教えてください」  それじゃ、と言って、佑哉は去っていった。  僕は内心、ほっと胸をなで下ろす。  飯田は荷物を抱え直し、ぼんやりと言った。 「葛城くん、良い子だよなあ。全然気取らなくて」 「素朴な性格だと思うよ」  ちょっと子供っぽいけどね、と、心の中で付け加える。  飯田相手に対抗心むき出しなんて、子供っぽい。  ちょっとうれしい僕も、子供っぽいけど。  部屋に戻ると、佑哉が飛びついてきた。 「う!?」 「先輩のこと大好きな奴が他にもいるなんてえええ……」 「何、おおげさな。軽口だよあんなの」 「2回も言ってたうえに、大好きポイントが俺とかぶってます」 「……どこから聞いてたの」 「一発で黙らすところが好きってあたり」 「ほぼ全文だね」  佑哉は僕をベッドに押し倒し、ちゅっちゅっと音を立てて何度もキスしてきた。 「先輩の好きなところはいっぱいありますけど、風紀委員長な瞬間は、見てて爽快感があって好きです。それで、部屋に戻ってきたらこんなに可愛いのも。耳真っ赤ですよ」 「も、からかわないで」  ぽすぽすと背中を叩いてみても、意味はない。 「なんか全校集会とかないかなー。かっこいい先輩が見たい」 「ん、んぅ……っ」  恥ずかしく思いながら、佑哉のえりのあたりを掴んで言った。 「僕なんて……史上最悪に口だけの風紀委員長だと思うよ。だって、こんな、」 「こんなって?」 「佑哉とくっついてると、すぐエッチな気持ちになっちゃう」 「やば」  佑哉は僕の手首を掴んで、そのまま佑哉の下腹部に導いた。  ズボンの上からでも分かるくらい、固くなっている。 「なんか、どうにかしてくださいこれ」 「……口でしてもいい?」  最近分かったことだけど、僕はどうやら、口の中の感触に弱いらしい。  ディープキスは異常に興奮するし、佑哉のものをパンパンに口に含んでいると、現実感を失ってしまう。  よく考えれば、初めてこの部屋で性的に触れ合ったとき、まだちゃんと好きとかも伝えていないのに、いきなりなめた。  余裕なく佑哉のベルトをゆるめ、制服のズボンをずらす。  下着の上からはむっとしてみたら、佑哉は気持ちよさそうに息を吐いて、部屋の電気を豆電球にした。 「ん、ふぅ……っ」  下着をずらして、好き勝手にぺちゃぺちゃとなめたり、すっぽりくわえこんで、唇でしごいてみたり。  佑哉は、ベッドサイドの小さな棚を探った。  きょうは挿れたいのかな、声我慢できるかな……なんて思いながら夢中で口淫にふけっていると、佑哉がかすれ声で「顔上げて」と言った。  不思議に思いながら口を離して見上げる。 「先輩、気持ちよくなりたい?」 「ん……、うん」 「俺と風紀乱すの、好きですか?」 「……すき」 「じゃあ、いいものあげます。最近、モデル仲間の中でちょっと流行ってるんです」  佑哉はクスッと笑って、僕のまぶたのあたりにそっと手をかぶせた。 「目閉じて、口開けてください」  ぼんやりとした思考で、言われた通りに口を開けると、舌の上に何かが置かれた。  甘い。舌の上で溶かすタイプの錠剤みたいな。  佑哉は僕の口の中に指を入れると、その錠剤を舌に押し付けて、ゆっくりと中をかき混ぜ始めた。 「ふわふわしてきますよ」  口の中に甘い唾液がたまって、こくっと飲み込むごとに、ぼーっとしてくる。  多分、すごくだらしない顔をしていると思う。  飲み込みきれなかった唾液がつーっと口の端からこぼれて、佑哉はそれをぺろっとなめとった。 「ん、おいしい」  口の中が征服されている感じで、体が熱くなって……勃ってしまっている。 「ぁ……、あ」 「して欲しい?」  口の中のものが溶けてなくなり、僕は名残惜しく、佑哉の指をしゃぶる。  佑哉が目隠ししていた手を離すと、薄闇の中でも、彼がほんのり微笑んでいるのが分かった。 「挿れる? 声我慢できる?」 「できる」  目線で嘆願すると、僕は全部服を脱がされ、バックで、お尻だけ突き出すように顔をシーツに押し付けた。  枕で口元を押さえ、声が漏れないようにする。  まもなく佑哉のものが入ってきて、身悶えた。

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