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3日後の朝。医務の先生に迎えに来てもらって、退院した。
寮に着く頃には授業が始まっていたので、当然部屋には佑哉はいない。
僕はすぐに校長室に呼ばれた。
「本当に申し訳なかった」
「いえ、本当に大丈夫なんで、頭上げてください」
校長、教頭、学年主任、寮長、ラグビー部顧問、風紀の先生が勢揃いで、こちらが恐縮してしまうくらいの平謝り。
でもまあ、仕方ないと思う。
ラグビー強豪校での喫煙および集団暴行事件。
寮で起きた事件となると、学校側の責任問題も重大だし、有名大学の附属校として、世間から大バッシングかも知れない。
「僕は大丈夫ですよ。怪我も深刻じゃないですし、謝って欲しいとか一切思ってないので。親も別に何も言わないと思います。ただ、やっぱり気がかりなのは、葛城くんのことで……」
関係ない佑哉が巻き込まれるのが、本当に申し訳ない。
何もしていないのに。
むしろ人質にとられた被害者なのに。
果たして世相は、そういう風に捉えてくれるだろうか?
校長先生は、重苦しく答えた。
「いま決定しているのは、4人の退学処分です。あした、保護者説明会と、マスコミ向けに謝罪会見を行うので、関係ない生徒への風評被害やあらぬ誹謗中傷が起きないよう、しっかり説明をするつもりだよ」
隠ぺいして後々大ごとになるよりは、ということか。
僕は、ラグビー部内の不祥事であることを強調してもらえるようにだけお願いして、部屋に戻った。
どんな顔で佑哉に会えばいいのかな。
確かに、喫煙を先生に通報したのは僕だ。
でも普通なら、ラグビー部内で誰が漏らしたのかをあぶり出して、その人に罪をなすりつける気がする。
……と考えると、あえて僕に押し付けようとした理由なんて、佑哉と同じ部屋だったからだとしか思えない。
佑哉の名前を出せば言うことを聞くと、分かっていたのだろう。
部屋に着き、ベッドに腰掛け思案する。
僕は、佑哉と一緒にいない方がいいのかな。
痛む上半身に気をつけつつ、そっと寝転がる。
疲れた。
初めて、ちょっとだけ涙が出た。
「先輩、先輩」
いつの間にか眠っていたらしい。
目を開けると、視界いっぱいに佑哉の心配そうな顔があった。
「……ん、と、」
「先輩、ごめんね。ごめん」
それきり、言葉を詰まらせる。
僕は腕を伸ばして、ふわふわの髪の毛をなでた。
「こっちこそ、心配かけてごめん。ひとりで眠れた?」
「全然眠れませんでした。心配だし申し訳ないし、それに、勝手だけど……寂しくて」
「あはは。僕も寂しかった。ずっと、佑哉のところに戻りたいなーって思ってたよ」
僕は佑哉の首に手を回し、顔を近づけて、軽くキスした。
佑哉は目を丸くしていて、しかしすぐに、浮かない顔に戻った。
「俺ね、考えたんです。先輩が狙われたの、やっぱり俺のせいだって。だって、通報しただけの風紀委員長にあんなよってたかってって、おかしいですもん。俺の面倒見役の2年だから、俺の名前を出せば言うこと聞くと思ったんだろうなって」
「僕も全くもって同感だよ」
「だから……俺もう、先輩にも寮生にも迷惑かけたくないし……」
「うん。寮に迷惑かけるのはやだね。だから、ふたり暮らししよう」
「……は?」
固まる佑哉の頬をつついて笑う。
「多分、慰謝料やら見舞金やら口止め料やらいっぱい渡してこようとすると思うから、僕は学校に『お金は要らない代わりに、近所で佑哉とふたり暮らしさせてくれ』って言うつもり」
「は? なんで? どういうこと?」
「どのみち佑哉は、寮に住んでるのがファンの子にバレバレだったんだし、住まいを変えた方がいい。けど、ひとりじゃ何があるか分からないから、風紀委員長として、僕も一緒に暮らします」
佑哉は一拍の沈黙のあと、慌てふためいて言った。
「い、言ってることがめちゃくちゃですよ!? そんなこと通るわけないし」
「通る通る。敷金礼金佑哉の3年分の家賃を出したって、向こうにはお釣りが来るもん」
佑哉が寮暮らしなのは、登下校する姿を見せずに敷地内で全て済むからという理由だったらしいのだけど、こうなった以上、他の生徒と生活を共にする方がリスクだ。
かと言って、いまこのタイミングで佑哉が転校したら、『不祥事のせいで葛城佑哉が転校させられた』みたいな噂が流れて、学校は大ダメージのはず。
……というのを、先生たちに淡々と説明しようと思っている。
勝機は99.9%。
我ながら強引な理屈だなと思うけど、詭弁 は僕の得意技だ。
「ええ……? でも、先輩に迷惑かけちゃう問題は解決しないじゃないですか」
「逆、逆。もう僕たちに触るのは地雷ってことで、誰も干渉してこないって」
僕は佑哉の腕を引っ張って、無理やり横に寝転ばせた。
「ふたり暮らしなら、隣を気にせずセックスできるよ」
「……先輩、セリフと態度が違いすぎて可愛いです。真っ赤ですよ」
知ってる。
柄にもないことを言って、めちゃくちゃ恥ずかしい。
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