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9-5
けんか事件から2日後。
昼休みにひとりで手を洗っていると、後ろから呼ばれた。
振り向くと、会長。
わざわざ2年生の階まで降りてくるとは、これいかに。
「ごめんね、ちょっといい?」
「……少しなら」
どちらともなく、廊下の隅へ。
「推薦する子決まったから、一応お知らせ」
「わざわざすいません。誰に決まったんですか?」
社交辞令的に尋ねると、会長はにひひと笑って答えた。
「図書委員長のあずまちゃん。最後に良い思い出作って、良い感じで卒業して、来年向こうも卒業したら告白するんだ~」
「……はあ。頑張ってください」
「絶対立候補すんなよ! じゃ!」
職権乱用も甚だしい……と呆れかけて、考えを引っ込める。
色々乱用しまくって在学中から好きな人と同棲している自分の方が、よっぽど悪質だ。
……まあ、何にせよ、来年の生徒会長は東さんで決定だろう。
よく知らない人だけど、会長がきっと『女性のリーダー云々』とかうまいこと並べて、彼女以外あり得ませんみたいな感じにするんだろうな。
「せんぱーい!」
大声で呼ばれて振り返ったら、佑哉だった。
満面のモデルスマイル。
そして背中側から思いっきり抱きついてきた。
「うわっ!」
驚いて声を上げるも、抱きしめる力が強すぎてどうにもならない。
佑哉は僕の肩の横からにゅっと顔を出して、教室に戻ろうとする会長にあいさつした。
「笠原先輩もこんにちは」
「ああ、どうも。元気?」
「はい。おかげさまでとってもとっても元気です!」
「ゅ、ゅぅゃ……」
小声でたしなめるも、聞かない。
「聞いた話なんですけど、東先輩は他校の男子と付き合ってるらしいですよ」
「は!? マジで言ってる!?」
「はい。東先輩って高入生じゃないですか。中学の時から付き合ってる人がいて、全然隠してないから地元で有名って言ってました」
会長は頭を抱えしゃがみこみ――僕を見上げた。
「佐久間くん、立候補しない?」
「しません」
――キーンコーンカーンコーン
5校時の予鈴が鳴る。
佑哉は僕の胴体に回した腕をパッと離し、にっこり笑った。
「家帰ったら、オセロしましょうねー。それじゃあ笠原先輩、失礼します」
「お、おう……」
「僕もすいません、次移動教室なんで。失礼します」
「あう」
ショックを隠しきれていない会長を放置して、去る。
ポケットの中のスマホが震えたので見ると、佑哉からひと言。
[さっきの、東先輩に頼まれた嘘です]
さっぱり意味が分からなかったけど、家に帰ってよく聞いたら、『会長がしつこくてキモい』と話しているのが偶然耳に入り、追い払ってこようかと申し出たらしい。
息ができないほど笑った。
会長ざまあ見ろという気持ちと、そんな面倒を引き受けてまで仕返ししようとした佑哉が、可愛すぎて。
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