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多くの日本人にとって、クリスマスはただのイベントだけど、僕は結構『聖なる夜』みたいなものを感じた。
長いまつ毛を伏せて眠る佑哉の顔を眺めながら、この人と一緒にいることに、何やら神秘性を感じてしまったのだ。
神もスピリチュアルも信じないけれど、『何かの導きで葛城佑哉と引き合わされた』とか言われたら、それだけは信じてしまうような。
「――先輩、朝ですよ。起きてください」
体を揺すられて目を開けたら、差し込む朝日がキラキラと、裸の佑哉を照らしていた。
ああ、そうか。クリスマスの朝か、と。
少しのだるさを感じながらのろのろと支度をして、ふたり揃って学校へ向かう。
歩いていると、また大声で呼ばれて、振り向けば、きのうの女子ふたりだった。
「おはよー。ケーキ作ったー?」
何の質問だ、といぶかしがる前に、佑哉がニコニコして答えた。
「作りましたよ。ほら」
そう言ってスマホを取り出し、見せたのは……。
「えー! 佐久間くん可愛いー!」
「は!? ちょっと佑哉、何見せてんの!?」
「トナカイが鳥食べてるところです」
「ちょっ、やめ!」
「葛城くんは? ないの?」
「ありますよ、サンタ帽。ほら」
「うわーさすがモデルさん。何でも似合うねー」
焦ってスマホを取り上げようとしたら、佑哉はひょいっと腕を上げて、僕が取れないようにしてしまった。
「というわけで、広夢先輩はちゃんと家にいて、俺と一緒にケーキ作ったので、おふたりが見た見知らぬ女の子は無関係です」
「なんだーつまんなーい」
「風紀委員長が校則違反するわけないじゃないですか」
「それもそっか」
きゃいきゃい言いながら去っていく女子ふたりをぽかんと見送ったあと、僕は佑哉の背中を強めに叩いた。
「なんでよりによってあれ?」
「いや、あのくらいインパクトがないと。でもこれで、先輩の校則違反疑惑が払拭されましたね」
「なんかもっと他のあったでしょ……」
「俺も見せたんだからおあいこです」
佑哉はキョロキョロと周りを見回したあと、ほんの少しだけ僕の手に触れて言った。
「俺だってほんとは、あんな可愛い先輩の写真、他人に見せたくなかったですよ。でも、悪い虫除けでもあるんで」
「虫?」
「きょうがクリスマス本番なんですから。先輩を狙うおじゃま虫が湧いてきたら困ります」
「……ロケ、頑張ってね」
「むぅ」
肝心のクリスマス当日に生放送ロケが入ってしまった佑哉は、僕が女子を含むクリスマスパーティーに誘われたりしないかで、気が気じゃないらしい。
「大丈夫だよ。家で生放送見て、佑哉のケーキ作って待ってるから」
「余った生クリーム、先輩にかけて食べてもいいですか?」
「下品……!」
もう一度強めに背中を叩いたら、佑哉は子供みたいにケラケラと笑った。
クリスマスがこんなにふわふわしたものだなんて、……佑哉が現れなかったら、永遠に知らないままだったかも知れない。
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