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 佑哉の部屋で、家族アルバムを見せてもらいながら、つぶやいた。 「姉弟揃って美形だなあ」 「目元とか似てるってよく言われます」  佑哉は4人家族で、7歳上のお姉さんがいるらしい。  仕事はバイオリニストだそうで、小さい頃から習い事で忙しく、関西の音大に進んでからは一人暮らしをしているので、あんまり遊んだ記憶はないのだそうだ。  いまも、日本各地でコンサートが開かれていて、実家にはあまり帰ってこないとのこと。 「きのうは来てたらしいんですけどね」 「いつか会ってみたいな」 「ちょっと変わってますよ」  ふたりが姉弟なのは公になっていないそうで、またひとつ秘密を知れたのは、うれしいかもしれない。  キョロキョロと部屋を見回す。  少し高いシングルベッドは、下がたっぷり収納になっており、クローゼットも大きくて、部屋は整頓されている。  本棚には漫画がびっしり。  机の上には地球儀が置いてある。  佑哉はさりげなく僕を追い詰め、僕はぽすんとベッドに押し倒された。 「エッチしたいです」 「ええ……? ご家族に聞かれたら」 「先輩が声我慢してくれたら大丈夫ですよ」 「んぅ」  何の前触れもなく深いキスをされて、僕は背中にしがみついてしまう。  了承と捉えたらしい佑哉は、顔や体のあちこちにキスしながら服の中もまさぐっていて、あっという間に張り詰めた。 「可愛い。もう勃ってる」 「……言わないで。聞かれたら大変」  寮よりも緊張する。  あちらは廊下の外がわいわいうるさかったりしたけど、佑哉の部屋では、万が一何か聞かれても、弁明のしようがない。  佑哉は首筋に口をつけながらトレーナーをめくり上げ、乳首をくりくりといじった。  僕は声を出さないよう息を詰める。 「……っ、」 「なんか、いじわるしたくなっちゃいますね」  力なく首を横に振ったけど、佑哉は、優しく目を細めながら僕のズボンを下ろし、下着の上から形をなぞった。  もどかしくて足を擦り合わせてしまう。  佑哉はいつにも増して前戯が丁寧というか……しつこいというか……。  シーツを握りしめてこらえるも、声を我慢するのがキツくて、涙がにじんできた。  佑哉はそっと頭をなでながら、耳元で尋ねる。 「挿れるのは無理だから、素股でもいい?」  こくりとうなずき、脚を閉じて抱えた。  佑哉は僕の太ももの間にペニスを差し込む。  ゆるゆると動かし始めると、前戯が長かった分いつもより敏感で、裏筋が擦れるのが気持ち良すぎた。 「……ん、……っ、」  手の甲を口元に当て、声を殺す。  佑哉も相当気持ちいいようで、本当にセックスしているみたいな色っぽい表情で、息を弾ませている。  律動が速まるごとに僕の興奮も熱量を増していて、良いところに当たるたび、悶絶する。 「…………んぅ、……ッ」 「我慢して」 「……っ、」  首元を晒すようにのけぞる。  佑哉はかなりスピードと勢いをつけて腰を振っていて、ギシギシとベッドが(きし)んでいる。 「ぁ、……、も、…………ッ、ぁっ」 「イク?」  イヤイヤと首を横に振ると、佑哉は更に激しく腰を振った。  限界が近くて、涙がこぼれる。 「も、むり……っ、……ッ……」 「イッて。俺ももうイキそうだから」 「…………っ、んん…………っ!……ッ…………!……ッ……!」  お腹の上に、熱い液が飛び散る。  吐き出しきって敏感なところを擦られてビクビクと体が跳ねると、佑哉も気持ちいいらしい。 「イク、……っ!……ッ」  勢いよく飛んだ精液が僕のものと混じって――佑哉が射精する瞬間を直接見るというのは、なかなかにレアな経験だった。  体を拭いて、服を着直して、ティッシュゴミをまとめて、極寒覚悟で窓を開けて換気しながら、ひとつのベッドで縮こまっている。  当たり前だけどめちゃくちゃ寒くて、でも、佑哉の体温が感じられるから、気持ち的にはすごくあったかい。  ベッドのサイドボードに置いていた佑哉のスマホが震えた。  開いてみると、辰哉さんからのLINEだった。 [仲良くするのは結構だけど、もうちょっと静かにしてください。ベッドの軋みというのは、意外と階下に響きます] 「……!?」  ふたりして飛び起きる。  と、またスマホが震えた。 [キッチンにいると丸聞こえだったので、おばさんにはリビングでくつろいでいてもらって、僕はひたすらパン生地をこねていました。ホームベーカリーにセットしておいたから、あしたの朝食べてね。マフラーは受け取りました]  顔を見合わせていると、階段の下から、辰哉さんの「おじゃましましたー」という声が聞こえた。 「こんなん、なんて返事すればいいんだよ」 「とりあえず、お礼じゃない?」 「何にも触れずに、パンありがとうだけでいいですか?」 「…………そうして」  恥のあまり、布団の中にすっぽりもぐって、佑哉の胸のあたりに頭をぐりぐりと押し付ける。  佑哉は素早くフリックしながら、「うー」とうめいた。 「……いつの間に来てたんだろ。全然気づかなかった」 「いや、僕たちそれどころじゃなかったし」  辰哉さんの気持ちを思い浮かべる。  来て早々、2階からギシギシと聞こえていたのだとしたら、心の修羅場だっただろう。  命の恩人と言っても過言ではないので、今度菓子折りを持ってあいさつに行かないとダメかもしれない。  そんなことを考えていたら、むぎゅっと抱きしめられた。  佑哉はちょっと笑っている。 「あはは、新年早々変な思い出ができちゃいましたね」 「うん。でも、1日楽しかった。着物の佑哉、かっこよかったし」 「先輩、顔見せて」  布団からちょっと顔を出すと、佑哉は僕の髪をすきながら言った。 「今年のお願い、全部先輩のことでした」 「え? あんなに長々と手を合わせてたのに?」 「うん。全部先輩。ていうか、目をつぶったら先輩のことしか浮かばなかったので」  ……可愛い。  お祈り中をビデオに撮るのはマナー違反だと思ったのでしなかったけど、やめておいて良かった。  僕のことを考えていた表情を、他の人に見せたくない。 「今年もたくさん思い出作れたらいいですね」 「うん。いっぱい話して、色んなところに出かけようね」  大好き。  窓を閉めに起き上がった佑哉の服を掴んで、笑った。

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