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お昼時、学園の殆どの生徒が食堂に訪れるのは生徒会の面々が揃うからだ。
僕だって生徒会専用の机が見える所でいつも食事する。会長様が座る席からちょうど真正面の位置の席だ。
ただ、今日は担任の先生の頼みで職員室に寄っていたので、いつもの席は取れないだろう。時間もないし食堂の入り口付近で食べよう。
そう思いながら食堂に入った。
その瞬間、やけに静かだと思っていた食堂は瞬く間に騒がしくなった。
キャーキャーと騒ぎ出す親衛隊。
会長様に何かがあったのか。
近くにいた顔見知りの親衛隊に事情を聞く。
「何があったのですか。」
「あっ、隊長…。今…、て、転校生が、会長様にキスをしたんです。」
「へっ?」
キス…?
何がどういう状況でそんな訳のわからない事が起こっているのだ。
意味が分からない。
収集のつかない食堂。
何人かショックのあまり倒れている。
まずしないといけない事はなんだ。
会長様に理由を聞く。
ーー違う。
転校生と会長様を引き離す。
ーー違う。
現状把握だ。
現状把握をして、上手く会長様達には食堂から移動してもらい、その後、事の沈静化だ。携帯電話を取り出し、生徒会役員のアキさんに掛ける。
「もしもし、アキさん。どこにいらっしゃいますか。」
『生徒会室だよ。状況は食堂の監視カメラで把握しているよ。転校生が会長に突っかかって、会長が面白がったんだろうね。』
「一度、生徒会の方々を外にお連れして貰ってもよろしいでしょうか。」
『そのくらいならいいよ。メールでも送れば戻ってくると思うし。それよりも君の方が大丈夫な訳?』
「僕は平気です。転校生もここから出しますので切りますよ。」
『あっ、待って。転校生と一緒に食堂に来たのは同じクラスの委員長、小倉洋介。彼に言えば連れ去ってくれる筈だよ。』
「ありがとうございます。」
間も無くして、生徒会の面々は仕事が出来たと食堂を出て行った。僕は転校生の横でポツンと口を開けている小倉君に声をかける。
「小倉君、分かっていますね。生徒会の方々がいなくなった今、彼をここに置いていたら襲われますよ。」
「君は…。親衛隊の…。」
「僕らは会長様がより良い学園生活を送れるように活動しています。何があったのかいまだ把握は取れていませんが、会長様が転校生のことを気に入った事は分かります。ですので、僕らはまだ転校生に被害は出したくありません。分かりますよね。」
「ここから直ぐに出て行けって事と、今後会長に突っかかるなってところかな。俺も彼にそう言うつもりだから安心してよ。」
「ありがとうございます。僕はこれで。」
今度は親衛隊を集め、事の詳細を聞く。放課後には会議を開いた方がいいだろう。携帯で親衛隊に一斉送信する。
流石に100は優に超える会長の親衛隊を一堂に集めるのは厳しい。
副隊長と学年リーダーとで会議を行おう。小倉君が転校生を連れて行くのを確認した後、出入り口の近くに立つ。
「親衛隊全員聞きなさい。親衛隊であるならばどんな事情であろうとお慕いしている方に不快な思いをさせてはなりません。一条浩也様及び他の親衛隊も今すぐ落ち着きなさい。早まって転校生に制裁を行った者は即刻除名します。」
食堂で騒いでいたのは大半が会長様の親衛隊。僕は大きな声を出し、親衛隊を落ち着かせる。一人一人の顔を見て暴走しそうな人がいないか確認する。
「メールで伝えたように、放課後会議を行います。結果は再度報告するので今日はみんな落ち着いて授業に備えてください。」
転校生の見張りは小倉君がやってくれるだろう。みんな僕の声は聞こえているがあまり落ち着きがない。怒りや妬みの感情が渦巻いている。
今日、明日抑えられても一週間後にはどうなるか分からない。速めの解決と会長様の気持ちを確認しなければ。
最悪の昼休憩はチャイムによって終わりを告げた。
ただ、僕に小さな傷をつけて。
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