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会長様とお話できる機会はなかなか作れなかった。
それをなんとか作ることができたのはあの転校生と会長様がキスをした事件から2日経った放課後。
その間親衛隊が暴走することはなく、転校生に制裁が降ることはなかった。しかし、会長様の機嫌はあまり良くないようだ。眉間に皺がよっている。
「会長様、お忙しい中、お話しする機会を頂きありがとうございます。今回は言わずもがな転校生のことです。会長様、貴方は転校生のことをどうお思いなのですか?」
「俺があいつの事をどう思うかなんぞお前たちには関係ない事だろう。」
「僕達は会長様のご意向に従います。ですから、会長様の本当の気持ちをお聞かせください。」
「それは俺が今まで見てきた親衛隊とは掛け離れているな。俺が一年の時、お前達は容赦なく俺の友人達を傷つけただろう。お前達は自分勝手で自己中心的な考えしかしない。」
「今は違います。もし、会長様が転校生のことを好きだというならば、僕達は…。どうか、お願いします。ご自分の口から親衛隊に転校生の話をして下さい。どう思っているか口にするだけでいいのです。友人関係だとしても、愛しいと思う関係だとしても…。会長様が本気で思うならっ。」
「どの口が言うんだ。お前達は信用ならない。そのくらいのことを俺にしてきた。分かっているな?お前たちが俺のことをどう思おうがどうでもいい。ただ、あいつに何かしてみろ。ただじゃ済ませないからな。」
会長様は僕を睨んで去って行った。
あんな目で見られて、僕ら親衛隊の意義ってなんなんだろう。
愛する分愛してくれなんて烏滸がましいのは分かっている。
でも、少しくらい僕らにだって笑いかけて欲しい。
それが制裁への抑止力にもなるし、何よりも僕らは見たいのだ。
会長様の笑顔が…。
一条浩也親衛隊が設立されたのは会長様がご入学してすぐの事だった。
勿論、当時は会長様は会長という職についていなかったし、僕も隊長ではなかった。
設立したのは当時の3年生。
僕はというと、以前から会長様を慕っていたので割とすぐに親衛隊へ入隊した。
しかし、その活動はあまり良いとは言えず、会長様に近づく者は排除するのみとそんな思考の隊員が多くいた。
それは去年の夏まで続き、終わりを告げたのは僕らの一つ上の先輩が受験期に入り、かわりに僕が隊長になってからだった。
基本的に親衛隊というものは隊長が指揮をとる。そして、それによって親衛隊の方向性が変わってくるのだ。
僕は御家関係で一番良家とされていたので隊長に任命された。次男だが、お家柄は生徒会に匹敵する。
だから、親衛隊の中で僕に逆らえる者はおらず、簡単に親衛隊の考えを正す事が出来た。
一人一人に理解して貰えたのはきっと本当に会長様が好きな人が多かったのもあるだろう。
会長様にはそれに気付いて欲しかった。
でも、僕らは既に取り返しのつかない所まで会長様を傷つけてしまっていたのだ。
副隊長にどう説明しようか。
彼は根は良い子なのだが、偶に暴走するところがある。上手く感情をコントロール出来るように支えなければ。
僕はもう会長様が悲しむところなんて見たくない。
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