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それは突然で、予期せぬ時に起こった。
副隊長には会長様とはお話できないでいると嘘をつき続けていた。だけど、そろそろその言い訳も通じなくなっている。
意を決して、副隊長に会長様が仰った事を伝える事にした。
「会長様は…僕ら親衛隊がしてきた事を許していないようです。会長様に近づく者を容赦なく消していった結果とも言えます。ですから、会長様は僕らに転校生の事を話すつもりはないそうです。」
「会長様が…。でもっ、でも、僕は許せません。転校生に笑いかける会長様を見るたびに胸が引き裂かれる。
僕らは確かに会長様に悪い事をしました。だけど、僕らは親衛隊という理由だけで無視をされ、睨まれます。
親衛隊にいて得する事なんてないじゃないですか。それなら、恨まれたっていい。会長様から転校生を引き離しましょう。」
複雑な思いになる。
そう言いたくなるのは当然だ。
僕らの存在は会長様にとって忌むべき者。
これだけ尽くしても功績は認められず、笑いかけても貰えない。
なのに、何もしていないぽっと出の転校生は当たり前のように会長様の側で笑っている。
「それでも、耐えなければならないのです。僕らが行ってきた行為はそれ程までに非道だったのですから。きっとこれを乗り切れば、会長様のお考えも変わるはず。まだ会長様が転校生の事を好きと決まった訳でもありませんし。」
副隊長は渋々といったように頷いた。
理解して貰えて良かったと安堵したその瞬間だった。
副隊長の足がピタリと止まった。
何を驚いているのだと副隊長の視線の先へと目を向けると、会長様が自ら転校生にキスをしている光景が見えた。
「ああ…あぁ…」
なるほど、そういう事か。
胸が張り裂けそうになるこの気持ちはきっと仕方ないのだ。
好きな人が目の前で自分ではない誰かとキスをする。それは言い切れないほどの衝撃で、声が出せないほどの絶望で、恐ろしい程の憎悪に見舞われる。
「ど…して…。」
なんで、なんで、なんで。
僕じゃない。
転校生なんかと。
酷い、酷い、ひどい。
僕らが何をしたっていうんだ。
止めなかった。
会長様の近くにいる者たちが傷つけられていくのを止めなかったから?
それだけでどうして僕らは睨まれる。
違うんだ。
違う違う…。
止められなかっただけなんだ。
ただ先輩達を止めに入ったら最後、どんなお家柄であろうと虐められる。
親に言えない程苦しめられる。
僕らは分かっていた。
だから止められなかった。
それともそれが出来なかったから罰を受けているのか。
自分が傷ついてでも会長様の心を守るべきだったのか。
きっと、きっと、僕が間違っていたのだ。
ただ、声を聞かせて。
僕に笑いかけて。
昔の約束なんて忘れてていいから。
お願いだから、もう一度笑って。
そしたら、転校生とのキスも忘れられる。
許してあげられる。
お願い、お願いだから…。
転校生から手を離して。
矛盾をしている願いを唱え続ける。
転校生を好きになるんだったら僕らに笑いかけてなんて最低な願いだ。
でも、それで僕らは楽になれる。
「隊長…。」
副隊長が見ている。
何か言わないと。
何か、何か言わないと。
頭が回らない。
抜けないあのキスシーン。
どうすればいい。
僕は、僕は…。
真っ白になった頭はその日1日中そのままで。
普段絶対にしない無断欠席をその日初めてした。
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