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新たな約束をアキさんと結び、僕は新入生歓迎会に臨んだ。
転校生は鬼だと言う。
脅威的な速さで捕まえていく彼に逃げ役の子達は泣き喚いているとか。そんな噂が駆け巡るほど転校生は活躍していた。
僕はと言うと、教室の一角の物陰で静かに声を殺す。
残り30分。
鬼役が不利だと思うけれど、逃げ役も中々疲れる。
それに偶然なのか。
仕組んでいるのか。
鬼役の方が身体的に優れている人が多いのだ。
つまり、逃げ役もあまり有利だとは言い難い。
放送委員の情報によれば、逃げ役は残り10人。鬼役で確実に30人捕まえた人は3人だと言う。
その中にはきっと転校生もいるのだろう。
僕は溜息をこぼしつつも時計の針が進むのを見つめる。
その時、ガラガラとドアが開く音が聞こえた。
ピシリと体が固まる。
まんまるく体を縮めた。
音が出ないよう、口を開かないよう、息を止める。
ヒヤリと汗が伝う。
カツンカツンと迫ってくる足音に僕は目を瞑る。ギュッと拳を握りしめ足音の主が立ち去るのを待つ。
「お前…。」
見られた。
そう思い、逃げる体制を整える。
彼が逃げ役の生徒ならいい。
そう願いを込めて顔を合わせた。
「えっ…会長…様…。」
そこにいたのは会長様。久しく顔を合わせていなかったように感じる。少し窶れたように見えるのは気のせいだろうか。
「お前、親衛隊長か。」
少しがっかりするように呟かれたその言葉に傷付く。ああ、会長様だ。そう口が緩みそうになった自分が憎くて仕方がなかった。
「会長様…。申し訳ありません。直ぐに退きます。」
会長様も確か逃げる役。追ってから逃げてきたのだろう。僕がここにいたら会長様を不快にさせてしまう。
「待て、お前が先にここにいたんだろう。退く必要はない。」
「しかしっ…。」
「お前はもう俺の親衛隊ではないのだろう。俺に気を使う必要はないはずだ。」
スゥッと入ってくる言葉は酷く傷つくものだ。
親衛隊ではない、確かにそうだ。
それでも、その言葉は針のようにチクチクと僕の胸を傷つける。関係ない人間、そう言われているような気がする。
「会長様は遊園地を貸切にして誰と行くのですか?」
知らない間に心の奥底に隠していた言葉が声となって出ていた。
「それはこの新歓で勝ち、それを望んだ人間とだ。」
違う、そう言う意味じゃない。
忘れてしまった。
やはりあの約束はこの人にとっては大したことのない小さな約束なのだ。
「お前、なんで泣いている。」
「いえ、僕は…。会長様、やはり僕はここから出ます。あなたといるのはあまりに辛い。会長様、遊園地僕は会長様と行きたかったです。それじゃあ…、僕はこれで。」
「それなら、このゲームに勝てばいい。」
違う、違う。
そうじゃない。
でもきっとそれは会長様には分かってもらえない。
もらえないんだ。
僕は無言のまま、振り返る事なく教室を出た。
僕の想いなんて壊れてしまえ。
あんな約束忘れてしまえ。
そんな気持ちで僕は廊下を走り抜けた。
『ゲーム終了です。構内にいる生徒は速やかに体育館へと移動をお願いします。』
構内に広がる放送委員の声で僕はゲームが終わった事を知った。呆気なく終わったゲームに唖然とする。
でも、これで遊園地に行けるのだ。気持ちが膨れ上がる、きっと膨れ上がる筈なのに、どうして涙が止まらない?
わからない、分からないけど、胸が締め付けられた。
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