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観覧車に乗り込む。 本当は夕方に乗るのが夢だったけど、仕方ない。 回る回る。 ゆっくりと。 日差しが強く、遊園地内に完備されているプールに照りつけ、キラキラと輝いていた。 薄っすら見える人影はあの転校生だろうか。 会長様の瞳に映るその姿が羨ましくて仕方ない。それでも今、この時だけは僕が会長様の一番そばにいる。それだけで満足だ。 「会長様、今日はありがとうございました。」 「何がだ。俺は、お前に何かをしたつもりはない。」 「いいえ、遊園地を貸切にしてくれました。とても幸せな時間を過ごす事が出来ました。そして、僕の夢はやっと叶いました。」 会長は様はっと目を見開いて、こちらをじっと見つめてくる。 気付いてくれた? いや、もうそれはいい。 「僕、実は遊園地を貸切にするのが夢だったんです。幼い頃に見たCMが忘れられなくて、いつかあの遊園地を貸切にしてめいいっぱい遊びたいとそう思っていたんです。 でも今日初めて来て思いました。僕はこの夢のような楽園を一人で遊びたいと思っていましたが、それではダメなのだと。 アキさんと一緒に遊んで、一人じゃなくて友人と誰かと一緒に来て本当に夢の楽園になるのだと。 そして、思い出しました。 僕が幼い頃に遊園地を貸切にしたいと思ったのは両親と来たかったからだと。きっと貸切にしたら僕の両親も笑ってくれるのではないかと思ったのでしょう。 あり得ない話ですが。 でも、もうそれもいいかなと思えます。アキさんもそうですが、僕には親衛隊を通していろんな人と関わる事が出来ました。僕なんかと一緒にいてくれて、仲良くしてくれる人が出来ました。 だから、会長様、ありがとうございました。これでやっと前に進めそうです。」 僕の取り留めもない話を会長様は最後まで聞いてくれた。それだけで僕はスッキリとした気持ちになった。 「1つ聞きたい。お前がハノなのか。」 「覚えてて下さってたんですね。」  「何故言わなかったんだ。言ってくれれば…。」 「忘れられていたらと考えたら怖かったのです。でも、早く言っておけば良かった。そっちの方が僕はもっと早く会長様を諦められた。」 「お前は…、本当に俺の事を…。約束を俺に思い出させる為に親衛隊に入った訳じゃなかったのか?」 「会長様のことを好いていなければ、隊長の職になど就いていませんよ。」 信じられないといった顔で僕を見る会長様。瞳が揺れている。震える唇を抑えるように、声を発した。 「なんで、ハノだったんだ…。お前の名前は、羽澄美花だろ。名前を偽った理由はなんなんだ。」 「名前を偽ったつもりはありませんでした。あの頃、僕は友人達にハノと呼ばれていたのです。羽澄 ミハノ。美花と書いてミハノと呼ぶのです。僕もその頃の一人称はハノだったのでその流れでハノと名乗ったのだと思います。」 「…そうか。」 納得したようでその顔は歪んでいる。会長様は僕との約束を本当に忘れずに大切にしていてくれたのだと今日初めて知った。 僕はもうそれで十分。 観覧車が地上へ戻ってくる。 一周ゆっくりと周った観覧車の扉は職員によって開けられた。 「会長、ありがとうございました。」 にっこりと笑って僕は観覧車を降りた。

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